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2025年2月に観た新作映画の感想を書いています。
- ザ・ルーム・ネクスト・ドア(大阪ステーションシティシネマ)
- セプテンバー5(TOHOシネマズ梅田)
- ドライブ・イン・マンハッタン(テアトル梅田)
- キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド(TOHOシネマズ ららぽーと門真)
- あの歌を憶えている(テアトル梅田)
画像:映画.com
実はすでに4月ということで、記憶がはや曖昧なものもあるため、いつも以上にメモ程度の記事だったりするかもしれません。
ダントツで好きだったのは『ドライブ・イン・マンハッタン』でした。ショーン・ペンはいいね。
このあとネタバレがあります。気になる方はご注意下さい。
ザ・ルーム・ネクスト・ドア(大阪ステーションシティシネマ)
重い病に侵されたマーサは、かつての親友イングリッドと再会し、会っていなかった時間を埋めるように、病室で語らう日々を過ごしていた。治療を拒み、自らの意志で安楽死を望むマーサは、人の気配を感じながら最期を迎えたいと願い、“その日”が来る時にはイングリッドに隣の部屋にいてほしいと頼む。悩んだ末にマーサの最期に寄り添うことを決めたイングリッドは、マーサが借りた森の中の小さな家で暮らし始める。マーサはイングリッドに「ドアを開けて寝るけれど、もしドアが閉まっていたら私はもうこの世にはいない」と告げ、マーサが最期を迎えるまでの短い数日間が始まる。
引用:映画.com
病に侵されたティルダ様が、自らの手で人生の幕を引くまでのお話です。共演のジュリアン・ムーアは、ティルダ様に看取りをお願いされるお友達役。といっても2人は別にそこまでの大親友というわけではなく、同じ男(ジョン・タトゥーロ)と付き合ってた過去がある、みたいな関係性。
ストーリーは主に二人の女性の会話で進みます。ティルダ様もジュリアン・ムーアも素晴らしい役者ですから、それだけでじゅうぶん間が持ちます。さらにアルモドバルらしく、並々ならぬこだわりの散りばめられた衣装や美術、インテリアも素晴らしいので、上映中はまったく退屈することなく楽しめるのですが……。
結局、「病気になって、この先苦しんで死ぬ選択肢しかない金持ちがお金を掛けて苦しまなくてよい方法で死ぬ」以外に何もない話で、観終わったあとは「……で?」という気持ちにならざるを得ませんでした。お金の力で違法の薬を入手して、めっちゃオシャレな別荘みたいなところへ引っこんで、あんまりうるさくなさそうな知り合いに看取りをお願いして……いいよね。いくらお金を持っていても「死」は避けることができないけど、それに伴う苦痛や最期をどう過ごすかは選べるんだよね。
最後にはなにかそれだけじゃない切り口が描かれるのかと思ったけど特に何もなく、「死」がそこそこ射程距離に入ってきたお年頃の庶民としてはただただ羨ましいばかり。安楽死が違法である以上、何かとリスクがつきまとうにもかかわらずティルダ様に付き合うジュリアン・ムーアには「なんていい人なんだ」と思ったけど、実際に警察に拘束されているシーンに至っては「まあそうなるよね」としか思えないというか、むしろ一時的に拘束されただけでよかった。ヴェネチアで金獅子賞の映画なんだから、観る人が観ればもっといろいろあるんだろうけど……うーん、こんな感想ですみません。
セプテンバー5(TOHOシネマズ梅田)
1972年9月5日。ミュンヘンオリンピックの選手村で、パレスチナ武装組織「黒い九月」がイスラエル選手団を人質に立てこもる事件が発生した。そのテレビ中継を担ったのは、ニュース番組とは無縁であるスポーツ番組の放送クルーたちだった。エスカレートするテロリストの要求、錯綜する情報、機能しない現地警察。全世界が固唾を飲んで事件の行方を見守るなか、テロリストが定めた交渉期限は刻一刻と近づき、中継チームは極限状況で選択を迫られる。
引用:映画.com
すでに何度も映画やドキュメンタリーになっている事件ですが、本作の舞台は報道の現場。もちろん今だってこんな事件が起これば現場は大混乱だと思いますが、当時はオリンピックの選手村で起こったという状況もあり、現場にいるのは報道ではなくスポーツ部の人間たち。今のように簡単にリアルタイムで連携が取れる環境ではないので、ある程度の判断は畑違いの人間しかいない現場に託されます。
そんな環境で浮き彫りになるのは、思いのほか今の時代にも通じる報道倫理について。専門家(報道部)とコンタクトを取りづらいこの時代、本作の登場人物たちに沸き起こった葛藤は、誰でも発信者になれる現代の問題ともそこはかとなく通じるものをはらんでいます。たった90分の映画の中で、多くの人物の使命感や戸惑い、建前、本音、高揚、好奇心、名誉欲等、次々と浮き彫りになる人間性に加え、当時の世界情勢や女性差別にも触れながら錯綜、やがて収束していく脚本はみごとの極み。さすがオスカーの脚本賞にノミネートされていたというだけあると感じました。
ただ本作はどうしても「報道業界実録もの」としての印象が色濃いため、事件の背景についてはあまり言及されていません。今現在も燻る根深い問題をはらんだ事件なので、よりくわしく知りたいならケヴィン・マクドナルド監督のドキュメンタリー『ブラックセプテンバー ミュンヘン・テロ事件の真実』(配信なし、DVDのみ)とか、スピルバーグの『ミュンヘン』
あたりで概要をなぞっておくとよいと思います。
ドライブ・イン・マンハッタン(テアトル梅田)
夜のニューヨークを走るタクシーに、ジョン・F・ケネディ空港から1人の女性客が乗り込む。運転手はシニカルなジョークで車内を和ませ、2人は会話を弾ませる。運転手は2度の結婚を経験し、幸せも失敗も味わってきた。一方、プログラマーとしてキャリアを築いてきた女性は、恋人が既婚者であることを運転手に見抜かれてしまう。もう2度と会うことのない関係だからこそ、お互いの本音を赤裸々に語りあう2人。他愛ない内容のはずだった会話はいつしか予想もしなかった方向へと展開し、女性は誰にも打ち明けられなかった秘密を告白しはじめる。
引用:映画.com
今月の私のイチ押しはこちら。舞台はタクシーの車内、100分間ほぼリアルタイムで客と運転手の会話のみというなんとも地味で渋い作品なのですが、これ、なにがいいってショーン・ペンがいい。彼はここ10年くらいやめるやめる詐欺を繰り返しながらも数年ごとに出演作があったわけですが、その中でも今回は頭ひとつ飛び抜けていい。ほとんど会話劇なのでシンプルに彼の演技力が堪能できるというのはもちろんなのですが、どうやら脚本の段階から、クリスティ・ホール監督はこの役にショーン・ペンを想定していたらしく……なるほどいいわけです。
で、ほぼ当て書きで創造されたこのタクシー運転手のキャラクター、彼がもうね、いろいろ絶妙なわけです。昨今間違いなくアウトなセクハラ的、差別的発言をガンガンかましてくる。ただそれが嫌らしくならないのは、その言葉のひとつひとつがちゃんと善意から出てくるものだから。善意があればいいというわけではないのですが、このシチュエーションに限っては、ショーン・ペンはいろいろ抱えたダコタ・ジョンソンの心情を察して、敢えてこんな物言いをしているのかもしれない、わざと彼女を煽ってるのかもしれない……なんて思わされたり、でも一方で、そこまで出来た人というわけでもなさそうなガサツさも自然に漂わせてくるから、シチュエーションが作りものくさくならないというか、無神経に人の心に踏み込んでくる彼にそのうち彼女がキレるんじゃないかっていうドキドキ感もちゃんと持続する。彼女がキレたらペンも豹変するんじゃないかと怖くもなる。ただ会話しているだけなのに。
なんにしてもタクシー運転手然り、飲み屋でたまたま横に座った知らない人然り、もしかしたらラジオの人生相談みたいなのも同じかもしれませんが、二度と会わない人にほど悩みを打ち明けがちというのはよくある話です。本作はそんな大人のあるあるを題材とした、心地よいファンタジー。実際はこんなドラマチックなこと、まず起こるわけがありません。なのでまさかいないと思うけど世の男性諸氏、「そうか、オジサンが若い女の子と話すにはこんなふうに話せばいいのか」とか間違った理解の仕方をして、「女は~、男は~」なんてウン十年前の価値観をでっかい主語で括って分かったような口を利いてはだめですよ。これは脚本、演出のたくみさとショーン・ペンの計算された演技があってはじめて成り立つ、あくまでファンタジーなのですから。でもファンタジーだと思うと、この年齢の女性が概ね警戒しがちになる、というか警戒せざるを得ない相手と、奇跡的に心の交流がなされた末、わだかまりから解放されるという、とても素敵なお話だなと思いました。
キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド(TOHOシネマズ ららぽーと門真)
初代キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースから最も信頼され、ヒーロー引退を決めたスティーブから“正義の象徴”でもある盾を託されたファルコンことサム・ウィルソンが、新たなキャプテン・アメリカとなった。そんなある時、アメリカ大統領ロスが開く国際会議の場でテロ事件が発生する。それをきっかけに各国の対立が深刻化し、世界大戦の危機にまで発展してしまう。混乱を収束させようと奮闘するサムだったが、そんな彼の前にレッドハルク(赤いハルク)と化したロスが立ちふさがる。しかし、そのすべてはある人物によって仕組まれていた。
引用:映画.com
MCUのドラマシリーズ、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』から繋がる2代目キャプテン・アメリカのお話です。あと『インクレディブル・ハルク 』が関連作品として挙げられていて、私は一応どちらも鑑賞済み。両作品とも思いのほかしっかりつながっていたので、まったく予習なしだと少々厳しいかもしれません。いまさら2008年の映画を観るのも、数話に渡るドラマを見るのもだるいなーという人は、せめてウィキとかでさらっと登場人物などを頭に入れておくといいと思います。
ただ、そうまでして本作を観たほうがいいかと言うと私としてはやや微妙。これまでMCUを観てきて一応今後も追いかけておきたいとか、キャストやキャラクターが好きで出演作品を押さえたいという人以外は観なくていいんじゃないかしら。だってぶっちゃけおもしろくな……いや、いいところもあったんです。そもそも私はこの映画、嫌いじゃない。
というわけでまずはよかったところ、それはサム・ウィルソンのキャラクターです。もともと誠実を絵に描いたような人でしたが、今回もひたすら人のために働きます。先代キャップのように超人というわけでもないのに、そこでブレないのは本当に好感度大。そんな人柄にアンソニー・マッキーのマッチョ過ぎない雰囲気もよく合ってると思います。で、大げさじゃなくて私、実はこの要素だけで本作が嫌いにはなれなくなっていて。だってこの、常に正しくて人助けに奔走するって、ヒーローの最重要条件じゃないですか。そこがしっかり描かれていれば、とりあえずは満足というか、あとはまあ、それなりのクオリティが出てきてもそこそこ贔屓目に観ることができますよという心境ではあるのですが……。
すみません。残念ながらそれ以外は、手放しで褒められるところはなかったです。公開前、プレビューでの評判が悪かったから再撮影が行われたみたいな記事を観たときは、まあよくある話だし、そんな大げさに騒ぐことかなと思っていたのですが、今となってはもしかしたら大げさというわけでもなかったのかな、この段階でわりと大きな改変が行われたのかな、という気がしています。だってそうでないと、さすがに他のMCU作品と既視感が過ぎるエピソードを詰め込みすぎた脚本とか、同じ動きを繰り返すばかりの単調なアクションとか、ほとんど製作途中としか思えないVFXとか、なんかやっつけ仕事感が半端ない。
いくらMCUと言っても、これだけタイトルを重ねてくると常に完璧なものばかり出すのは難しいと思います。だからそこまで高望みはしていないつもりなんだけど、願わくばもう少し丁寧さの感じられるもの、愛情の感じられるものが観たいなと思っていて。そんな中GW公開の『サンダーボルツ*』は、予告を見るかぎり久々におもしろそうで期待してます。これで作り手の「この線で行く」という勢いが感じられたら、ここ数年の迷走感にも終止符が打たれる気がするんだけど……甘いかな。
あの歌を憶えている(テアトル梅田)
ニューヨークで13歳の娘と暮らすソーシャルワーカーのシルヴィアは、若年性認知症で記憶障害を抱えるソールと出会う。家族に頼まれてソールの面倒を見るようになったシルヴィアは、ソールの穏やかで優しい人柄と、彼が抱える抗えない運命への哀しみに触れ、次第にひかれていく。しかしシルヴィアもまた、ある過去のせいで心に傷を抱えていた。それぞれ自分の殻に閉じこもって生きてきた2人は、互いに寄り添いながら自身の過去や人生と向きあっていく。
引用:映画.com
『父の秘密』『或る終焉』『ニューオーダー』と胸クソ展開に定評のあるミシェル・フランコ監督の新作ということで張り切って劇場へと足を運んだら、普通にいい話でびっくりしました。いや、あんまりいいとも言えないのかな。話はむちゃくちゃ重いし。たださまざまな形で「記憶」に苦しめられている中年の男女が出会い、じっくりと関係を築いていく過程はなんとも優しくて癒やされます。まあ、それ以外のなかなかエグい問題はなにも解決しないし、クソみたいな人間はクソのままだし、メンタルがおぼつかない母を支える娘ちゃんもなかなか大変だし……。
あれ、思い返してみるとけっこうミシェル・フランコ味あるのかな。なんにしても「記憶」をキーワードに描かれる、人間の複雑な機微を描いた佳作ではあると思います。恋愛もののプロットで進む小品はあるけれど、今現在の自分を縛る、解決しようのない状況とどう向き合っていくかという、人間ドラマとしての深みもあるので興味のある方はぜひ。あとジェシカ・チャステインとピーター・サースガードの競演も素晴らしかったです。