映画『ザ・メニュー 』感想 切り口と見せ方が多彩で最後まで美味しい(ネタバレあり)

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あらすじと作品情報など

有名シェフのジュリアン・スローヴィクが極上の料理をふるまい、なかなか予約が取れないことで知られる孤島のレストランにやってきたカップルのマーゴとタイラー。目にも舌にも麗しい料理の数々にタイラーは感動しきりだったが、マーゴはふとしたことから違和感を覚え、それをきっかけに次第にレストランは不穏な空気に包まれていく。レストランのメニューのひとつひとつには想定外のサプライズが添えられていたが、その裏に隠された秘密や、ミステリアスなスローヴィクの正体が徐々に明らかになっていく。

原題:The Menu/2022年/アメリカ/107分/R15+
監督:マーク・マイロッド
出演:レイフ・ファインズ/アニヤ・テイラー=ジョイ/ニコラス・ホルト/ホン・チャウ/ジャネット・マクティア/ジュディス・ライト/ジョン・レグイザモ
引用:映画.com

予告編とざっくり概要(ネタバレなし)

完全にイッてる感じ(要するに通常運転)のレイフ・ファインズの、印象的過ぎる予告編がわりと早くから流れていたような記憶があります。その際受けていた印象から、シチュエーションホラーかスリラーか…といった感じだったので、なんとなくそんなドラマを予想をしつつ映画館へ。具体的には、ストレス過多な天才料理人レイフ・ファインズが、スノッブ感溢れるお客さんたちを集め、何か得体の知れないものを食べさせるんだろうな、みたいな。

それは大枠では外れていませんでした。でもさすが製作に『バイス』とか『ドント・ルック・アップ』アダム・マッケイの名前が入っているだけあって、いい意味でひねりの効いたアイデアがいっぱい。お得意の社会風刺もふんだんに盛り込みながら、出てくる料理のなんともまずそうな感じや、バカみたいなコンセプトも楽しくて…。

アダム・マッケイ、さすがに手堅い。とはいえ、監督はアダム・マッケイではありません。思わず勘違いしてしまいそうなほど「ぽい」ですが。本作の監督はアダム・マッケイが製作総指揮をつとめる『メディア王~華麗なる一族~』で、同じく製作総指揮として関わっていたマーク・マイロッド。お名前はまったく知らなかったのですが、映画ではサシャ・バロン・コーエン主演の『アリ・G』とか、クリス・エヴァンスが出演している『運命の元カレ』等を手掛けた、結構なキャリアのある方のようです。

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感想(ネタバレ注意)

※以下ネタバレあります。



序盤からテンポのよさにどっぷり引き込まれる

まずは埠頭で船を待つ面々。開始早々、集まった人たちの素性と、これから彼らが向かうのは、かなり予約の取りづらいカリスマシェフ、スローヴィクのレストラン「ホーソーン」のディナーだということが明かされます。お客さんは12人。いずれも一癖ありそうな料理評論家や映画スター、職業は分かりませんがお金持ちそうな年配の夫婦や、コネで予約を取ったとおぼしき、あまり品の良くないIT企業の社員たち。

そんな中、唯一「庶民感」があるのが、アニャ・テイラー=ジョイ演じるマーゴという女性なんですが、どうやら彼女は、ニコラス・ホルト演じるグルメオタクぽい男性、タイラーに連れられてやってきた模様。しかもタイラーがもともと同伴するはずだった女性がキャンセルしたため、急に呼ばれたみたいです。タイラーは気乗りしないようすの彼女に「今日の料理は貴重なものなんだ、1人1250ドル(17万くらい)するんだよ」と、一生懸命ディナーの希少性を解説するんですけれども。

さくさく進む冒頭から、まったく空気を読まない男、タイラーが笑えて好印象。その後は、ホン・チャウ演じるエルサに案内されてレストランのある孤島に到着、スローヴィクを筆頭に軍隊のごとく訓練された料理人たちによってさっそく料理が供されます。予告から、どう考えても楽しい食事会の映画ではないことは明白なので、出てきた料理が「パンのないソースだけのパン皿」だの「不都合な個人情報が焼き付けられたトルティーヤ」だの、客をバカにしたような代物であることは想定内、意外性はありません。

ザ・メニュー

(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved.

ですが、ひとつひとつの料理が現代美術のごとく凝った造形だったり、ドラマの舞台(レストラン)の構造もところどころいびつ、もしくは不自然なレベルのシンメトリーで気持ち悪かったり。またスローヴィクをはじめとしたレストラン側の人間が圧倒的に不気味、そんな、明らかにやばそうなスローヴィクにがっつりメンチを切りながら言いたいことを言ってしまうマーゴや、おかしいとは思いつつもしれっとしているその他の客のようすなど、周辺の見せ方が厚くて画面内のいろいろなものが気になります。したがって興味は途切れることがなく、すっかり引き込まれているうちに、料理の内容は「気持ち悪いメニュー」から「マジでやばいメニュー」へと進化。やがて客たちの事情、レストラン内の異様な人間関係も浮かび上がってきて、中盤ではかなり取り返しのつかない事態へと発展していきます。

基本的にはコメディです

アダム・マッケイといえばブラックコメディ。『バイス』にしても『ドント・ルック・アップ 』にしても、登場人物の言動や行動がかなり極端で、しっかり笑えるんだけど、そこに社会派な風刺も効いていて、観賞後はじわじわと考えさせられるような作品でした。

でも本作はちょっと違う。先にも書いたようにさまざまな要素を織り込んではいるものの、それらはあくまでお話のスパイスや推進力という感じ。基本的には「食事」の本質を見失い、客たちと同等かそれ以上の特権意識に固執して狂ってしまったシェフ(とその配下たち)の、行き過ぎた顛末を笑うお話となっています。つまりアイデア先行、あまり難しいことを考えて観るものではないのかもしれないなと。

そう考えると、アダム・マッケイのネームバリューに囚われていた初見時ちょっと気になった、集まったお金持ちの人々が(好感度が高いとは言えないが)それほど悪人じゃないのも、厨房内の異常な上下関係も、その構図をしっかり引き立てるものとして納得がいきました。

ちなみに、他の客とちょっと立ち位置が違っていたのが、ニコラス・ホルト演じるタイラー。というのも、タイラーは本来、「ホーソーン」で食事ができるような立場の人間ではありません。冒頭の、セレブ感溢れる他の客たちを目にしたときの反応にも顕著ですが、むしろレストラン側が客を選ぶような店で「なんでここにこいつがいるの?」と、引っかかる人も多かったのではないでしょうか。妙なメニューが出ても浅薄なうんちくをたれるばかりで会話が成り立たず、かなりトンデモな状況となっても気にしているそぶりすら見せないのが不気味でした。

そんな彼が、実は事前にスローヴィクから、このディナーがどういうものであるか知らされた上で招待状を受け取っていたことが明かされるのは、物語も後半にさしかかろうかという頃合。それでも(あろうことかマーゴを連れて)のこのことやってきたのは、スローヴィクに心酔しているから。ゆえにスローヴィクのしようとしていることにはまったく疑問を抱かず、実際に周囲でおかしなことが起こりはじめても何の感情も沸かない、つまり思考停止に陥った非常に厄介な人間のようです。そのくせ写真撮影禁止というレストランのルールも守れないわけで、「君のせいで芸術が丸見えだ」なんていうスローヴィクの台詞からも察するに、映してはいけないものをSNSなんかにも投稿しているのかもしれません。つまり、スノッブ集団の中でひとり浮くタイラーが体現するのは、間違いなく「タチの悪いファンダム」、対象を勝手に神格化するわりには、そのクリエイティビティを簡単にふみにじる手合い。

こういうタイプはどのジャンルにもいるのだろうとは思うのですが、痛烈なのはそんな男が、狂信的に崇める相手にどう考えても理不尽なこと(タイラーは料理人じゃないので)をさせられ、大勢の前で恥をかかされてもそこにまったく疑問を抱かず、何やらひどい言葉で批判をされた挙げ句、最終的にありえない選択をしてしまうこと。これは、タイラーには他の客と同じように罰を与えても罰にならないと思ったスローヴィクがあれやこれや考えた末の罰なのだと思いますが、このくだり、やりとりのひとつひとつがあきらかに狂人vs.狂人の様相を呈していて、わたし的には劇中もっとも笑ったパートでした。


クライマックスまでアイデア満載で大満足

とにかく、謎料理を食べさせられたり、内輪揉めを見せられたり、命がけの鬼ごっこをやらされたり…何かと既視感はあるものの「みんな大好き」な要素を詰め込みつつ、ラストはマーゴによる、「料理」映画を観に来た客の目も気持ちもしっかり楽しませながらの技あり脱出劇。その後については、スローヴィクがかなり早い段階から「俺のやりたいこと」を明確にしてていたため、大きな驚きはありません。でもビジュアルが想像以上に景気が良くて、大変ほっこりする幕引きとなりました。

わたしはこの映画は、人が生きていく上で切っても切れない「食事」の延長上にあるがゆえに、純粋な「芸術」にはなり得ない「料理」に「芸術」を見いだそうとしている人たちの顛末をメインに据えた作品だと思っているのですが、そこにエスタブリッシュメント批判、誹謗中傷、性的搾取等々、社会問題への言及もやんわりトッピング。キャラクターもうるさくない程度に個性に溢れ、エピソードの配置もとても絶妙だったと感じています。

いわゆる「大作」ではありませんが、練り込まれた話運び、役者陣の演技、美術、すべてがある程度以上のレベルをクリアしていて、楽しく観たあとは重くならない程度にいろんなことを思案でき…。

わたしはたぶんこれくらいの規模、これくらいのさりげない含みのある映画がいちばん好きなので、かなり満足できました。そしてDisney+で配信中の『フレッシュ』や、U-NEXTで配信中のドキュメンタリー『Qアノンの正体』に続いて、見どころのある若い監督や脚本家にお金をくれるアダム・マッケイ、本当に素晴らしい。ご本人の監督作ももちろん待ち遠しいですが、それと同じくらい製作としての活躍も超見守っていこうと思っていますよ。

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