【映画感想文】『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』シャラメ主演でも安定のサフディ節

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あらすじと作品情報

原題:Marty Supreme/2025年/アメリカ/149分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:ジョシュ・サフディ/製作:イーライ・ブッシュ ロナルド・ブロンスタイン ジョシュ・サフディ アンソニー・カタガス ティモシー・シャラメ/製作総指揮:ティモ・アルジランダー アンドレア・スカルソ サラ・ロセイン ジョー・ゲスト/脚本:ロナルド・ブロンスタイン ジョシュ・サフディ/撮影:ダリウス・コンジ/美術:ジャック・フィスク/衣装:ミヤコ・ベリッツィ/編集:ロナルド・ブロンスタイン ジョシュ・サフディ/音楽:ダニエル・ロパティン
出演:ティモシー・シャラメ/グウィネス・パルトロウ/オデッサ・アザイオン/ケビン・オレアリー/タイラー・オコンマ/アベル・フェラーラ/フラン・ドレシャー/ルーク・マンリー/川口功人

卓球人気の低いアメリカで世界一の卓球選手になることを夢見るマーティ・マウザーは、親戚の靴屋で働きながら世界選手権に参加するための資金を工面する。ロンドンで開催された世界選手権で日本の選手エンドウに敗れたマーティは、次回の日本での世界選手権への出場を目指す。不倫相手のレイチェルが妊娠し、卓球協会から選手資格を剥奪され、資金が底をつくなか、あらゆる方法で遠征費用を集めようとするマーティだったが……。

引用:映画.com

感想(ネタバレを含む場合があります)

『アンカット・ダイヤモンド』が最高におもしろかったサフディ兄弟が、いつのまにか解散してソロ活動を始めていた。別に仲違いをしたというわけではなさそうで、ジョシュ・サフディ監督による本作も、5月公開のベニー・サフディ監督作『スマッシング・マシーン』も、お互い早い段階で鑑賞しあうなどしているらしく、その点はなんとなくほっとしている。

というわけで、ソロになってどんなふうに変化したのかと興味津々で鑑賞したが、わりとこれまで通りの、「コンビ」でやってきた作品群に近い味わいだった。つまり欲の皮の突っ張ったクズが行き当たりばったりで考えなしな行動を繰り返し、結果どんどん事態が悪化していくのを、パワフルなテンションで追いかける。間違っても感動したり共感したりできるタイプの主人公が登場する作品ではまったくなく、なのに癖になる疾走感で目が離せない……って、うん、サフディ作品、安定の通常運転。しかも今回、これまでのタイトル以上に、主人公だけでなくまわりの人間までもがどうかと思うタイプばかり。その筆頭がマーティの不倫相手であるレイチェルだが、クセの強さでいくとグゥイネス・パルトロウ演じる引退した有名女優ケイ、顔面力半端ないアベル・フェラーラ(!)が演じるエズラが凄まじく……。

とにかくほとんどの登場人物が浅はかでカネと色に欲深くことごとく暴力的。彼らが自由奔放に振る舞うたびに浴槽が落下し、犬が走り、ピン球がまき散らされていく。事態はかなり絶望的なのだが、あまりにもシュールな出来事が絶妙なテンポで繰り出されるせいか、観ているほうはだんだんおかしな高揚感と、トリップでもしているかのような酩酊感に包まれる。この独特のお祭り騒ぎの味わいは(すでにいろいろなところで言及されているようだが)マーティン・スコセッシ監督の作品群(特に『アフター・アワーズ』)を思い出した。

それからスコセッシ繋がりというと『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』にも参加していた、ジャック・フィスクによる美術も素晴らしい。初期のテレンス・マリックやリンチ、PTAといった、ビジュアルに並々ならぬこだわりを持つクリエイターの作品に関わってきた名匠なので、今さら取り上げるまでもない隙のないお仕事なのだが、本作に限ってはなんと「1950年代の東京」が登場する。この再現度がなにしろ素晴らしく、美術セットは言わずもがな衣装、エキストラの顔立ち、メイクに至るまで、戦後ほどない日本の風景を完璧に復活させていて驚いた。

ジャック・フィスクのインタビューによると、このリアリティが出せたのは監督の奥さんの詳細なリサーチのおかげとのことだ。日本で撮影した際の日本人スタッフの助言にも深く感謝されていて、まったく権威ぶらない人間性にも感心したが、考えてみればたしかに、いくら名人でもまずは作るべきものに関する資料がないとどうしようもない。

特に今回のように、時代ものであることに加えて、制作国以外の国(特に文化の著しく異なるエリア)を再現している場合、見るがわの環境や年齢によってはどうしてもアラが目に付きやすい。もちろんそれはお互い様なので(日本の映画の海外描写もそこそこ雑なことが多い)よほどじゃなければスルーするものの、そんな大なり小なりの引っかかりの詰み重ねが、最終的には作品の印象を大いに決定づける。そう考えるとリサーチというのは作品に信憑性を与えるとても大切な作業であり、その上でしっかりこだわっていくのが美術や衣装といった仕事の真髄なのだろう。

ちなみにビジュアルに関しては、カメラワークや構図も含めて、試合のシーンを筆頭にほぼ全編で何かしらの目を引くポイントがあった。バタバタと落ち着きのないドラマだが、ベテラン撮影監督ダリウス・コンジの力量もあってか目が疲れるというようなこともなく、画面の密度が高いため150分を超える上映時間でもまったく飽きることなく楽しんだ。ただしひとつだけ言うと、実はラストシーンはちょっと微妙に感じてしまった。だってあいつクズだもの。母親もまあそこそこクズ。なのに子供って、大丈夫? 

というのも、マーティの金の亡者っぷりがちょっとウチの父親に重なるところがあって。そのせいで私はどうしても、クズはクズだぞ死ぬまでな、って思ってしまう。なんとなくいい話っぽく終わってんじゃねーよ、と。もちろん子供なんて知っちゃこっちゃないというエンドはそれでそれでどうかと思うが……このあたりの感覚は人それぞれ。子供を持つ人が見ればまた違う感想が出てくるだろう。

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