【映画感想文】『プロジェクト・ヘイル・メアリー』原作の魅力を損なわずに大胆脚色、大ヒットも納得のキュートな映画ではあったけど

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あらすじと作品情報

太陽のエネルギーが奪われるという原因不明の異常現象が発生。このままでは地球は冷却し、人類は滅亡してしまう。同じ現象が太陽だけでなく宇宙に散らばる無数の恒星で起こっていることが判明し、11.9光年先に唯一無事な星が発見される。人類に残された策は、宇宙船でその星に向かい、太陽と人類を救うための謎を解くことだった。この“ヘイル・メアリー(イチかバチか)”プロジェクトのため宇宙に送り込まれたのは、優秀な科学者でありながら学会を去り、いまはしがない中学教師をしていたグレースだった。彼は地球から遠く離れた宇宙でたったひとり、自らの科学知識を頼りにミッションに臨み、そこで同じく母星を救おうと奮闘していた異星人ロッキーと出会う。姿かたちも言葉も違う2人は、科学を共通の言語にして難題に立ち向かい、その過程で友情を育んでいくが……。

引用:映画.com

原題:Project Hail Mary/2026年/アメリカ/156分/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督:フィル・ロード クリストファー・ミラー/製作:エイミー・パスカル ライアン・ゴズリング フィル・ロード クリストファー・ミラー アディッティア・スード ・オコナー アンディ・ウィアー/製作総指揮:パトリシア・ウィッチャー ドリュー・ゴダード ルーシー・キタダ ニッキ・バイダ サラ・エスバーグ ケン・カオ/原作:アンディ・ウィアー/脚本:ドリュー・ゴダード/撮影:グレイグ・フレイザー/編集:ジョエル・ネグロン/音楽:ダニエル・ペンバートン
出演:ライアン・ゴズリング/ザンドラ・ヒュラー/ライオネル・ボイス/ケン・レオン/ミラーナ・バイントゥルーブ/ジェームズ・オルティス

当ブログはネタバレをあまり気にしていません。オチに関わる事柄についての完全なネタバレは極力避けていますが、その線引きには個人差もあります。気になる方はご注意ください。

感想(ネタバレを含む場合があります)

公開初日の3月20日、TOHOシネマズららぽーと門真のDolby Cinemaにて鑑賞。エキスポのIMAXとも迷ったが、上映回数が限られており、座席争奪戦が煩わしそうだったので諦めた。世の中には「この映画はこのフォーマットで観ないとダメだ!」みたいな論調もあるものの、こればっかりは人それぞれ、生活スタイル、金銭的な状況、住んでいる場所の事情もあるから仕方ない……って、話が逸れた。

原作は発売と同時に購入しすぐに読了。たしかそのころからすでに主演ライアン・ゴズリングで、フィル・ロードとクリストファー・ミラーによって映画化進行中、みたいな情報があったように思う。主に上巻に集約されているサプライズ部分がどうなるのかは当時もぼんやり考えたが、そもそも本作の大部分を占める観察、理論、計算の部分が映画では表現が難しい。どうしても映画向きの脚色はせざるを得ず、それを手掛けるのが本作と同じ原作者による「火星の人」をうまく料理していたドリュー・ゴダードなので、それなりのクオリティにはなるだろうと安心していた。もちろんフィル・ロードとクリストファー・ミラーも大好きな監督である。

で、出来上がったものを観ての感想だが、基本的には楽しかった。予想通り観察、理論、計算の部分はざっくりとカットされていたし、サプライズ部分に至っては予告からバラされていたが、冒頭の「ここはどこ?」から窓の外の景色が映るシーンは流れを知っていてもハッとしたし、未知との遭遇シーンも文字だけの情報だった状況がビジュアルで観ることができてワクワクした。ロッキーとの絆にクローズアップしたドラマも妥当だと思うし、ライアン・ゴズリングの1人芝居もさすがだ。156分の上映時間は短くないが、上下巻にまたがるSF小説をまとめたと思えば許容範囲だろう。

ただ(これは私の好みかもしれないが)全体的に軽めの仕上がりになっているのはちょっと気になった。たとえばロッキーの造形や動きだが……原作には「蜘蛛のよう」とあったのに、あまり昆虫感は感じない。なんなら「ファンタスティック・フォー」のザ・シングみたいでマンガっぽいし、動きも転がるようなコミカルなもので、片言みたいなしゃべり方に関しては……原作もこんな感じだったっけ。だったらしょうがないか。とはいえ作中、上にも書いたようにSF的観察、推論、計算の部分は大いに省略されている。だから小説ではとても大変な行程の末に乗り越えたことが、映画ではずいぶん簡単に進んでいくように見えてしまう。

回想シーンで登場するストラットも、やや軽めのキャラクターに調整されていた。というか、この人に関しては一番大切な部分が削ぎ落とされてしまったよう気がしている。彼女があそこまで冷徹に計画を成功させようとするのは、過去に歴史を学んだからだ。資源や食料が限られる状況になれば、人はそれをみなで分け合うのではなく必ず戦争を始める。つまり地球外生物にどうにかされる前に、自滅する可能性が高いのだ。ストラットはそれを避けようとしている。映画ではその思想は、カラオケでハリー・スタイルズの「 Sign of the Times」を歌うことで示されるが……カラオケというのはあくまで娯楽。この方法では(少なくとも私には)彼女の切迫感が伝わらなかった。そもそもストラットさん、カラオケで歌うようなキャラじゃないでしょ。

というわけで、心の片隅で「なんか軽いな……」と思いつつ観ていたせいか、ラストの、子供番組の冒頭みたいな教室シーンにはちょっと醒めてしまった。映画『オデッセイ』で、原作の「火星の人」にはなく、映画で追加され評判となったラストシーンへのオマージュなのかもしれないが、これがあるせいでついつい圧倒的に落ち着いていたリドスコのまなざしと比較してしまう。あとこれもラストで、原作にはない地球の状況やストラットを見せるのも……必要かなあ。

とまあ、いろいろ引っかかりもあるにはあった。でもまあ、リドスコとフィル・ロード&クリストファー・ミラーでは持ち味がまったく異なる。その時点で比べるのは野暮というものだ。くどいようだが、どちらも大好きな監督である。この「軽さ」だからこそ世界はもちろん日本でもヒットしている可能性は高く、それはそれで素直に嬉しい。

とはいえ傑作確定の原作である。もし数年後再映像化する機会あれば、そのときはドラマでやるというのはどうだろう。ロジック部分にちゃんとスポットをあてて、グレースとロッキーが科学の力でさまざまなトラブルを乗り越えていくのを、時に図やテロップも多様して、小中学生や根っから文系の大人にもわかりやすくじっくり見せていくのだ。配信ドラマなら基本1話30分くらいでも、話がスペクタクルに動く部分では60分とかにすればいい。

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