2025年5月に観た新作映画の感想を書いています。
- 異端者の家(TOHOシネマズ ららぽーと門真)
- クィア QUEER(大阪ステーションシティシネマ)
- ヴィーナス(テアトル梅田)
- サブスタンス(TOHOシネマズ ららぽーと門真)
- サンダーボルツ*(TOHOシネマズ ららぽーと門真/Dolby Cinema)
今月は記事を2本に分けましたので、まずは前半に見た5本です。
この中でいちばんおもしろかったというと、やっぱり『サブスタンス』でしょうか。いろいろ凄い映画ではありましたが、何はさておき前評判に違わぬデミ・ムーアに圧倒されました。じゅうぶんお綺麗とはいえ、照明だのメイクだのを最大限に駆使して若さを強調しまくった「スー」と比較されるわけですから、単なる「脱ぎました」「ありのままです」とは、必要な根性量が全然違うと思うんだよなー。ほんとすごい。オスカー獲ってほしかった。
異端者の家(TOHOシネマズ ららぽーと門真)
若いシスターのパクストンとバーンズは、布教のため森の中の一軒家を訪れる。ドアベルに応じて出てきた優しげな男性リードは妻が在宅中だと話し、2人を家に招き入れる。シスターたちが布教を始めると、リードは「どの宗教も真実とは思えない」と持論を展開。不穏な空気を察した2人は密かに帰ろうとするが、玄関の鍵は閉ざされており、携帯の電波もつながらない。教会から呼び戻されたと嘘をつく2人に、帰るには家の奥にある2つの扉のどちらかから出るしかないとリードは言う。実はその家には、数々の恐ろしい仕掛けが張り巡らされており……。
引用:映画.com
監督:スコット・ベック ブライアン・ウッズ/製作:ステイシー・シェア スコット・ベック ブライアン・ウッズ ジュリア・グラウシ ジャネット・ボルトゥルノ/脚本:スコット・ベック ブライアン・ウッズ/撮影:チョン・ジョンフン/美術:フィリップ・メッシーナ/衣装:ベッツィ・ハイマン/編集:ジャスティン・リー/音楽:クリス・ベーコン/キャスティング:カルメン・キューバ 出演:ヒュー・グラント/ソフィー・サッチャー/クロエ・イースト
いわゆるシチュエーションスリラーで、ホラー要素もあります。
見どころは公開前からの評判通り、ヒュー・グラントの怪演なんですが。その圧強めの演技に負けじとガッツを見せるソフィー・サッチャーっていう子もやば……なんてことを思いつつ観ていたら、彼女、『ブギーマン』のお姉ちゃんじゃないですか。あのときも存在感すごかったですが、6月には『MaXXXine マキシーン』でも見たし、同月配信に来た『コンパニオン』では主演だし。もうすっかりアチラでは売れっ子なんですね。次回作はレフンの新作だそうで、なるほど、どことなくアニャを思わせるエキセントリックな魅力が際立ちそうな気がします。いいと思います。楽しみです。
とはいえ、本作の魅力がただひたすらキャスト頼みなのかというとまったくそんなことはなく、とりわけ私がおもしろいなと思ったのは「勧誘に来たモルモン教のシスター」と「宗教オタクの論破オジサン」というシチュエーション。宗教の勧誘って日常生活の中でもかなりウザいものの筆頭ですから、前半はむしろ論破オジサンのほうが正論を言っているような気がする……じゃなくて、実際正論を言ってるんですよ。でもそれがだんだん、なんだかおかしくなってくる。帰りたがる女子ふたりを言葉たくみに言いくるめ、自分の思うように操りはじめて……そのへんでああこいつやばい、宗教の勧誘は嫌いだけど、もうこれ、そういう問題じゃないわ、みたいな心境になってくる。
スリラーって基本、緊張感をいかに持続させるかがキモだと思うんですが、本作は「宗教の勧誘」を主人公にしたことでまずスタート時点の好感度が低い。そこからキャストの演技力にも引きこれまてどんどん感情を揺さぶられ、最終的に「逃げて!!」になるから心の振り幅が自然と大きくなるし、後半、さらにネチネチ攻めてくるオジサンに反撃するためクロエ・イースト演じるシスターが用いるロジックが、思いのほか宗教関係なく納得できるもので……。
とにかく脚本が繊細で上手い。しかもそれを演じる役者が達者で、視覚を刺激するホラー要素もそれなり。オチもとても美しかったので、なんていうか……ジャンル映画としてのほどよい満足感がものすごい。毎日食べたい定食屋みたいな安定感が半端ないので、同監督の手掛けた他作品も気になってきました。『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』とか『65/シックスティ・ファイブ』とか、近々チェックしてみようかな。
クィア QUEER(大阪ステーションシティシネマ)
1950年代、メキシコシティ。退屈な日々を酒や薬でやり過ごしていたアメリカ人駐在員ウィリアム・リーは、美しくミステリアスな青年ユージーン・アラートンと出会い、ひと目で恋に落ちる。渇ききっていたリーの心はユージーンを渇望し、ユージーンもそれに気まぐれに応えるが、求めれば求めるほどリーの孤独は募っていく。やがてリーはユージーンと一緒に人生を変える体験をしようと、彼を幻想的な南米の旅に誘い出すが……。
引用:映画.com
正直あまり相性の良くないルカ・グァダニーノ監督作品なのですが、90年代が青春時代だった身としてはとりあえずウィリアム・バロウズはチェックしておきたい……と言っても、実際すごくはまったとかはまったくなくて。ただ当時私はアート系の書店でバイトしていたので、書店員としてのたしなみくらいの気分で著作をめくったり、特集されていた雑誌を読んだりしていただけなんですが。
つまりバロウズのことをちゃんと理解していたわけではないので、今回もまあなんていうか……90年代に囓ったバロウズの著作同様、細かい部分はよくわからず。ただあの頃抱いた印象からすると……ちょっとロマンチックというか、耽美すぎやしないか? 単に私の記憶が曖昧なだけかもしれませんが、もしかしたら本作には、ルカ・グァダニーノの、バロウズへの憧れみたいなものがかなり入っていたりもするのかも。
というわけで、非常に薄っぺらく曖昧な見方しかできず申し訳ない。大した感想も出てこないのですが、ムカデが象徴的に出てきたり、劇中登場する映画がコクトーの『オルフェ』(これも90年代にリバイバルで観た、懐かしい)だったり。なにかと読み解きがいのありそうなイメージやオマージュが散りばめられていて、興味のある人だったらそのへんを深掘りしていくと楽しいだろうなと思います。
ヴィーナス(テアトル梅田)
スペインのマドリード。ナイトクラブで働くダンサーのルシアは、雇い主の犯罪組織から大量のドラッグを盗んで逃亡する。疎遠になっていた姉ロシオと幼い姪が暮らす、「ヴィーナス」と名付けられた郊外の老朽化したアパートへ身を隠したルシアだったが、ロシオが置き手紙を残して姿を消してしまう。犯罪組織の手が迫る中、世界では異例の日食が起こり、人々が恐れおののいていた。そして、日食と連動するかのようにアパートでは未曾有の怪異が目を覚ましつつあった。ルシアは残された姪を守りながら、恐怖の一夜を生き延びようとする。
引用:映画.com
監督:ジャウマ・バラゲロ/製作:カロリーナ・バング アレックス・デ・ラ・イグレシア/製作総指揮:アラセリ・ペレス=トリージャ/原案:H・P・ラブクラフト/脚本:ジャウマ・バラゲロ フェルナンド・ナバーロ/撮影:パブロ・ロッソ/音楽:バネッサ・ガルデ
出演:エステル・エクスポシト/イネス・フェルナンデス/アンヘラ・クレモンテ/マグイ・ミラ/フェルナンド・バルディビエルソ
サブスタンス(TOHOシネマズ ららぽーと門真)
50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベスは、容姿の衰えによって仕事が減っていくことを気に病み、若さと美しさと完璧な自分が得られるという、「サブスタンス」という違法薬品に手を出すことに。薬品を注射するやいなやエリザベスの背が破け、「スー」という若い自分が現れる。若さと美貌に加え、これまでのエリザベスの経験を持つスーは、いわばエリザベスの上位互換とも言える存在で、たちまちスターダムを駆け上がっていく。エリザベスとスーには、「1週間ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがあったが、スーが次第にルールを破りはじめ……。
引用:映画.com
今のところ、洋画で今年いちばんの話題作じゃないでしょうか。よって感想とか考察はたぶん巷に溢れまくっていると思うのですが……私はというとあんまり細かいことを気にせず、ひたすら矢継ぎ早に飛び出すキューブリック、デ・パルマ、ジョン・カーペンター、スチュアート・ゴードン、フランク・ヘネンロッター等々へのオマージュを堪能しつつ、エアロビ、キャットファイト、溶けていく身体、特盛りの血糊……キャー、楽しい!!となってました。
だってこの手のホラーって、ふだんそれほど大きなスクリーンでやらないじゃないですか。まあ今回もそこまで大きくはないけれど、とはいえシネコンですからね。そりゃもう楽しいです。
ルッキズムやフェミニズムというキーワードは本作の大きな要素ではありますが、本作はジャンル映画なので、そのあたりはアイデアを転がすための材料のひとつという気がしています。もちろんエリザベスが愚かな道へと進んでいったのはルッキズムに寄るところが大きく、そうならざるを得なかったのは男性優位の社会だったからだとは思うのですが、あまりそういう部分に固執してしまうと、せっかくの楽しい映画を素直に楽しめなくなるというか、悲しくなってしまってもったいないというか。
ぶっちゃけ、脳天気に観すすめてもラストはちょっとせつない後味の作品です(たぶん)。そのあたりは監督も意識してバランスよく締めていると思うので、これから観る方は考察などを読みすぎて構えてしまわないよう、基本的には軽い気持ちで楽しんいただでけたらいいんじゃないかと思います。
あとYouTubeに、本作のベースとなったコラリー・ファルジャ監督の『REALITY+』という短編があります。既に知っている人も多いとは思いますが、これがなかなかおもしろいです。ホラーというよりSFで、グロテスクなシーンもないので観たことないひとはぜひ。フランス語ですが、自動翻訳でもそこそこ分かると思います。
サンダーボルツ*(TOHOシネマズ ららぽーと門真/Dolby Cinema)
姉を失ったことで空虚な日々を送っていた暗殺者のエレーナは、謎多きCIA長官ヴァレンティーナからの指令を受けて、ある施設へ向かう。そこで同じくヴァレンティーナによって集められたジョン・ウォーカー、ゴースト、タスクマスターが一堂に会し、記憶を失ったボブという謎の男も現れる。思わぬ危機が訪れたことで一同は協力して窮地を乗り切り、エレーナを助けに来た父のアレクセイ、ヴァレンティーナの真の目的を探るバッキー・バーンズも合流し、「サンダーボルツ*」という即席のチームを組むことになる。やがてニューヨークの町に次々と市民を消し去る脅威の存在が出現。当初はバラバラだった「サンダーボルツ*」は、危機に直面する中で次第にチームとして結束していく。
引用:映画.com
今度のMCUはみんな大好き負け犬一念発起もの、しかもヴィラン的でもある(本当にヴィランなのかどうかは、あんまり知識ないのでわかりません)はみ出しものたちが主人公。しかも主演はフローレンス・ピュー、ウィンター・ソルジャー、デビッド・ハーバー、ワイアット・ラッセル。ルイス・プルマンって……キャスト豪華すぎん???
あまりハードルを上げすぎるのはよくない、でもどうしても上がってしまうこの布陣。大丈夫かな、がっかりしないかな……という程度の心持ちで挑んだぶんくらいは、じゅうぶん楽しめる感じの内容でした。
大枠のお話そのものはちょっと無理くりというか、たぶん今後の展開とか、それ以前にあのオチを成立させるためだと思うのですが、いちばん悪い奴が制裁受けてないじゃんとか、人助けシーンがなんかとってつけたみたいだったな(ないよりはいいけど)とか。言いたいことがないわけじゃないけど、それを上回る勢いでキャスト勢が魅力的だったからまずは満足。あとはこのままうまくMCUとしてのストーリーが進んで、その中でキャラクターたちが生き生きと活躍してくれるといいのだけど。あとタスクマスター、生きてるといいな……。