当ページのリンクには広告が含まれています。
引用:映画.com
あらすじと作品情報など
アポロ・クリードとの戦いを経てチャンピオンとなったロッキー・バルボアの前に、ソ連から“殺人マシーン”イワン・ドラゴが現れる。ドラゴとの激戦によって、ライバルであり親友のアポロを失ったロッキーは、対ドラゴ戦のためソ連へ乗り込む。
引用:映画.com
ざっくり概要(ネタバレなし)
「(コロナ禍で)暇だったから、家の掃除をしていたら出てきた『ロッキー4 炎の友情』のフィルムを再編集してみたよ」と、スタローン本人からめっちゃフランクなアナウンスがあったのは、2021年の御大のお誕生日(7月6日)のこと。未公開映像なんと42分、しかも日本だけは劇場公開するっていうじゃありませんか。なんという嬉しい逆誕生日プレゼント……。
1985年にアメリカで公開された『ロッキー4 炎の友情』は、スタローンがいちばんノリノリだった頃の作品です。時代も時代ですから(おそらく)湯水のようにお金が使えたことや、彼の悪い癖(たまにいい方に作用することもある)盛りすぎ、やり過ぎがインフレ状態だったこともあり、映画としての評価はかなり微妙だったみたい。
でも当時の私はまだそういう情報を知らなかったし(ネットもなく、情報源は雑誌くらいだったけど子供には高かった)、そもそも最寄りの映画館まで特急電車で2時間という田舎住みだったこともあって劇場鑑賞はままならず。ようやく観賞できたのは、さんざん焦らされてからのビデオ発売後(たぶん1年くらい経ってから、映画好きの両親を持つお友達にレンタルビデオをダビングしたものを借りました)だったわけですが、そのときはそりゃもううれしかったですよね。
まあたしかに、1作目の『ロッキー』からずいぶん遠いところまで来たもんだと、子供ながらに思うところはありました。折に触れて出てくるロボットも、今でこそ「80年代よねえ」と感慨深く受け入れられるものの、当時は「なんだこれ」って思いましたよ。でもこの頃のスタローンの筋肉はキレッキレ、さらにそれ以上にドルフはひたすらでかくてこわくて、試合のシーンに至ってはあまりの凄まじさに「さすがに今回はロッキーやばくね?負けるってか……死ぬんじゃね?」と手汗べっしょしょ。『バーニング・ハート』『ハーツ・オン・ファイヤー』とトレーニングシーンを彩る音楽も心地よく、エイドリアンとかポーリーとかデュークにもしっかりいいシーンがあって……。
素晴らしい映画じゃないですか。そしてその後、何回観直してもその思いは変わりません。つまり私は『ロッキー4 炎の友情』が大好きであります。それが今回、劇場で鑑賞できると。しかも御大直々のご厚意によって。そんなことがあっていいのか。これは夢じゃないのか。
そしてついに来る8月19日、私は「夢じゃなかった…」と呟きながら劇場へと向かいました。かなり混雑していることに感激しつつ印象的だったのは、20代とおぼしきスッキリした若者が純白のスタローンのTシャツをさらりと着こなしていたこと。あまりのまぶしさとうれしさにうっかり声かけそうになりましたが、がまんしましたよ。もちろん。
感想(ネタバレ注意)
以下、ネタバレがあります。
ここが変わった『ロッキーVSドラゴ ROCKY IV』
まずきっちりと明記されているテクニカルな部分の変更点は、
- 4Kデジタルリマスター
- サラウンド
- ビスタからシネスコへのアスペクト比変更
この中で観ていていちばん顕著に感じられたのは5.1chサラウンドでした。音すごい。特に試合中の肉を打つ音。映像については周年記念等でソフトが出るたびわりとバージョンアップされてきたせいか、たしかにきれいにはなっているのですが感激するほどの変化は感じられず。そう考えると5.1chサラウンドが響いたのは、音はやはり集合住宅である自宅での再現には限界があるためかもしれません。
続いて内容の変更点です。こちらはやはり、スタローン自身も明言している「心の動きに重きを置いている」ということが如実に伝わるつくりになっていました。主に前半ですが、冒頭からまったく変わっているので全然違う映画という印象を受けます。具体的には『アイ・オブ・ザ・タイガー』をバックにしてのグローブは全カット。本編は静かに始まり、『ロッキー3』のダイジェストもクライマックスのクラバーとの対戦ではなく、試合後のアポロとの交流がメインになっています。
そのあともロボットに関連したシーンが削れ、その分「アポロが頑なにドラゴと対戦したがる理由」に焦点が絞られています。印象的だったのはエイドリアン。いわゆる(マッチョイズム的な思想に端を発する)「男の心理」をぴしりと言い当てるあたり、彼女の冷静さと利発さが現れていていいなと感じました。また同時に、そんなシーンを撮っていたんだということにも驚き。スタローン自身、ちゃんとこのころからエイドリアンの人となりを確立していたんだなと。その上で、当時は映画としてのテンポや勢いを優先させたんでしょう。
ほかにもアポロの試合中、スタローンがタオルを投げようとするタイミング、アポロの葬儀、その後のエイドリアンのやりとりは、かなりの変更が入っています。オリジナルとはかなり違う印象を受けるため、やっぱり編集ってすごいなと。
引用:映画.com
スタローンは『エクスペンダブルズ』でもディレクターズ・カット版を製作していましたが、このときの追加は10分。それでもかなり印象が変わって感じたので、42分だったらまるで違う映画になってもまあ当然です。それに今回は、追加じゃなくて差し替え。ここがまた彼のセンスの良いところで、『ロッキー4』という映画の内容からして、90分台というランニングタイムが妥当だと判断してのことでしょう。
一般的にディレクターズ・カットといえば長くなりがちです。好きな映画ならたくさんのシーンを観られることが単純にうれしかったりもしますが、監督の思い入れの先走りが観て取れてしまい、オリジナルより冗長になってしまう例もなきにしもあらず。このあたりのさじ加減を間違えないスタローンはやっぱり素晴らしい。映画をよく分かっている人なんだろうなと思います。
さらに、一見変わってなさそうなところも
まずはロシア入りから試合までのシーン、ここはあまり変わってない。『バーニング・ハート』『ハーツ・オン・ファイヤー』と名曲に乗せてのほぼMVみたいな部分だし、ナチュラル派ロッキーと科学の子ドラゴのトレーニングの対比なんかは最初から完成されていたので、いじりようがなかったという感じです。
ただ、まったくそのままなのかというとそうでもなくて、ここで強烈に感じるのはドラゴの存在感。それまでも随所にオリジナルよりも彼の孤独感みたいなものが感じられるようになってはいたのですが、ここではさらにそこが強く押し出されていました。それはこの後の試合のシーンにも引き継がれています。
試合も、流れそのものを変えるわけにはいかないので、前半ほどの変更はありません。それなのに、印象はわりと違う気もします。たぶん、ドラゴの悪役感がちょっと減っている感じ。驚異として描かれていることは変わらないのですが、彼なりの立場、矜持がよりくみ取れるようになってる。それをロッキーも、もちろん受け止めています。
でもって試合後、オリジナルとはまったく逆の行動を取るロシアの方々。ここはこんなカットもあったんだというのがちょっと意外。こういう展開にすることも考えてたのかと思うとちょっと驚くし、さらに現在のこの国の状況を考えると……いろいろ考えてしまいます。
で、今後観るならどっちなの?問題
これはもう、両方観てくださいとしか言いようがない。だって同じ話ながら、受ける印象はまったく違う。なんなら正反対なんだもの。これはもう映画という芸術の奥深さを知るためにも、ぜひ両方。
とはいえ悲しいかな、劇場公開の終わってしまったらどうなるのか、現時点では未定のようです。劇場のみで公開という告知だったので、私は観れるだけ観ておこうと劇場へ日参していましたが、なんだかんだでそのうち配信されるんじゃないかなとも思っています。その際はぜひ見比べてほしいですが、強いて言えば印象はこんな感じです。
- 『ロッキー4 炎の友情』80年代感、イケイケ感がすごい。テンポはいい。アガる。お気楽。
- 『ロッキーVSドラゴ ROCKY IV』しっとり渋く、人間ドラマの部分がクローズアップ。『クリード 炎の宿敵』へのつながりがとてもスムーズ。
その後
2024年2月現在、『ロッキーVSドラゴ ROCKY IV』は、やはり日本国内での配信がありません。ソフトも輸入盤を含め発売されていないようです。
ただし字幕がなくても大丈夫なら、北米Amazonでの配信を観ることが可能な場合もあります(方法についてはググったりしてみてください)。
『ロッキー4 炎の友情』については、各種動画配信サービスにて試聴可能です。

