映画『ザ・ロストシティ』感想 スターの存在感と説得力のみで押し切る冒険恋愛活劇かと思いきや(ネタバレあり)

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あらすじと作品情報など

恋愛小説家のロレッタは、新作であるロマンティックな冒険小説の宣伝ツアーに強引に駆り出される。作品の主人公を演じるセクシーなモデル、アランの軽薄な態度にいら立ちを募らせるロレッタの前に、謎の大富豪フェアファックスが出現。フェアファックスはロレッタの小説を読んで彼女が伝説の古代都市の場所を知っていると確信し、彼女を南の島へと連れ去ってしまう。ロレッタを救うべく島へ向かったアランは彼女を発見し、ともに脱出を目指すが、大自然の過酷な環境の中で思わぬトラブルに次々と見舞われる。

引用:映画.com
原題:The Lost City/2022年/アメリカ/112分
監督:アダム・ニー/アーロン・ニー
出演:サンドラ・ブロック/チャニング・テイタム/ダニエル・ラドクリフ/ダバイン・ジョイ・ランドルフ/オスカー・ヌニェス/パティ・ハリソン/ボーウェン・ヤン/ブラッド・ピット

ざっくり概要と予告編(ネタバレなし)

主演はサンドラ・ブロック、長きに渡って変わらない凜々しさと隣のお姉さん的親近感を併せ持つ、たぶん苦手な人はいないだろうハリウッドの大スター。最近では『ゼロ・グラビティ』とか『オーシャンズ8』あたりがのイメージが強いかもしれませんが、2013年には『デンジャラス・バディ』でなかなか弾けたコメディエンヌぶりを発揮していたりします。
共演のチャニング・テイタムも、傾向としては『マジック・マイク』『フォックスキャッチャー』での繊細なマッチョキャラの印象が強いですが、同時期には『21ジャンプストリート』なんていう、かなり突き抜けたコメディにも主演していたり。

このたしかな安定感のある2人がコンビを組んで、これまた信頼できる映画人、セス・ゴードン原案のもと、80年代っぽいアドベンチャーコメディを制作すると聞けば、そりゃ期待値も高くなるというもの。公開時は予告を観るたびに、かなり楽しみにしていたのですが、なぜか劇場では見逃してしまいまして。

このたびようやく配信にて鑑賞。劇場公開時に観た人からは、もれなく「まんま『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』よ」と伝え聞いており、ストーリーや大雑把な空気感についてはその時点である程度察してはいたのですが…。

これが思ったよりずっとスマートかつユニークな視点でアップデートされていて気に入りました。これから観る方はどうしても自宅での鑑賞になると思うのですが、ジャングルが舞台のアドベンチャーものながら、メインの要素は掛け合いが楽しいコメディですので、スクリーンじゃなくてもその魅力はじゅうぶん堪能できると思います。

ちなみに、監督(脚本)は『トム・ソーヤーの盗賊団』アーロン・ニー&アダム・ニー。トム・ソーヤーが現代に生きていたら…というコンセプトの、かなりシュールな作品です。

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感想(ネタバレ注意)

※以下ネタバレあります。



終始バカバカしいのだけれど

先にも書きましたが、本作はあらすじを読めば(というか、もともと学者であるというロレッタの設定を知れば)、多くの人(特にある年齢以上の人)が、1984年のロバート・ゼメキス監督作品『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』を思い出すのではないかと思います。とはいえ昨今、過去にヒットした作品の焼き直しは決して珍しくなく、それがどういう方向性でアレンジされるかということも、わりと容易に想像がつくでしょう。そして実際、予想はそれほど外れておらず、現代的なアップデートは重要なことではあるものの、今さら大きく驚かされる要素というわけでもないのですが…。

たぶん本作のインプレッションはそんな感じ。おそらく、サンドラ・ブロックの年齢からは想像もつかないスタイルの良さや、チャニング・テイタムの脳筋ぶり、それを生かした笑いやドタバタをそれなりに楽しんで観たあとは、数時間もすればきれいさっぱり忘れてしまう。本作がそんな印象になってしまうのも、無理もないこととは思うのですが。

意外にも、わたし的にはわりと心に残るシーンが多く、思っていたよりもずっと印象深く鑑賞しました。特にチャニング・テイタム演じるアランの、基本的には全編シュールなまでのアホ丸出しを披露するものの、時折見え隠れする優しさと誠実さ。さらにそれが、密かに想いを寄せている相手、サンドラ・ブロック演じるロレッタに対してだけじゃなく、自分の仕事や、時に無茶振りをしてくる自分のファンたちにも向けられているところはかなりぐっと来てしまいました。

一方ロレッタはやや問題のある女性で、5年前の夫の死からスランプ気味なのは気の毒ではあるけれど、自分の小説のロマンス部分ばかりに期待する周囲やファンをやや見下し気味。もともと古代ローマ史を研究していた学者という設定もあり、ただの融通の利かないインテリなのかと思いきや「わたしはサピオセクシャル(知性に性的魅力を感じることらしいです)なの」と言った舌の根も乾かないうちに、会って数秒(知性はもちろん、人となりもまったく分からない状態)でブラピ演じるジャックによろめいているあたり、序盤はまったく筋の通らない女性であります。

このサピオセクシャル宣言に関してはさらに仕込みがありまして、ロレッタにその意味を説明をされたあと、ちょっと考えるようなそぶりを見せてから「僕もだ」と深く頷いていたアラン。ロレッタはこのとき、アランが意味も分からずいい加減に返事しているものと決めつけ半笑い気味だったんですが、話が進むうちに、たしかに頭はいいのだけど年も上、ちょっと面倒なロレッタに惹かれ続けているアランこそがサピオセクシャルなのだということが判明。しかもアランはイベントの壇上でロレッタの説明を聞いて、瞬時に正しく理解したのですから、実は全然バカなんかじゃないわけです。

この「僕もだ」のシーンでは、ロレッタの「どうでもいいです」顔もおもしろくて、わたしもついつい笑ってしまったものの、心のどこかに「脳筋=バカ」の図式があり、アランのことを見下していたんじゃないかと考えて、はっとしてしまいました。

もちろん本作はコメディで、この笑いは意図的に挿入されたもの。ここは笑ってもいいところ…というか、むしろ笑うところではあるのですが、アランは作中さほどスタンスが変わらないのに、こちらの受け取る印象がどんどん変わっていくため、もしかして自分も「日常生活でもいろんな人や事柄に対して、意識せず先入観があるんじゃないか…」って。

もちろん先入観なんて大なり小なりあるのが当たり前。ことさら重く思い詰めたわけではありませんが、そんな思いが頭をよぎる瞬間もあり、まさかそんな爪痕を残していく映画とは思っていなかったので、ちょっと驚かされた次第です。

アクションはブラピにおまかせ

本作はブラピのカメオ出演も話題になりました。どこに出ているのかとわくわくしながら見始めましたが、探すまでもなくかなり早めに颯爽と登場。カメオというには大いに作り込まれた派手な見せ場を披露して、その後は衝撃的に退場していきます。

このアクションシーンはブラピ自身がいろいろアイデアを出してやりたいことをやったそうですが、シュワルツェネッガーばりの無双がルックスと相まってめちゃくちゃかっこいい。そこまでする必要なくない?というレベルの大爆発もあって、完全に本作のベースとなっている80年代頃の冒険活劇も含めたアクション映画のパロディとなっています。

ですが、このクライマックス並のアクションが序盤で展開され、早々にその仕掛人が退場していくということは、つまり「本作はあなたが期待する冒険活劇映画ではないですよ」ということ。

ザ・ロストシティ

(C)2022 Paramount Pictures. All rights reserved.

よってこれ以降、アクションはないわけではありませんが、基本、素人がジャングルでプロに追われたらという設定で、かなりバカバカしいことをやっています。『アフリカの女王』を思わせるヒルの襲撃とか崖登り、カーチェイス等々、アドベンチャーもしくはアクションシークエンスもそれなりには用意されているものの、派手さ、スタイリッシュさはそれほどなく、ここをくみ取り損ね、あまつさえ期待してしまうと、後半はかなりもの足りなく感じてしまうかも。失われた古代都市をめぐる謎も(物語の落としどころには深く関わってくるものの)決してスケールの大きなものではないので過度の期待は禁物です。


全体的には大満足

『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』がベースの内容と聞いて、わりと単純な男女逆転劇を想像していた自分としては、そこからもうひとひねりあったキャラクター造形、80年代の量産型アクションに関しても、まんま再現されるのかと思いきやブラピという逸材を使ってとことんパロディに仕立てていたこと、ダニエル・ラドクリフ演じる悪役アビゲイル・フェアファックスや、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ演じるロレッタの広報担当ベスの思いのほかリアルな存在感、さらには意外にズシンとくるお仕事ものとしての視点等、幾重にも施された現代的なアップデートと、バラエティに富んだ切り口、語り口を存分に楽しみました。

お金の掛かった映画だし、ジャングルという絶好のロケーションが舞台なんだから、冒険活劇ものとしてももう少し見ごたえがあっても良かった気もします。ジャングルの緑はなかなかリアルだったけど、虫や動物や謎食に困らされるシーンなんかも観たかった。でも「思っていたのと違う」でつまらないと感じてしまうには、ちょっともったいなさすぎる佳作だとも思います。何はともあれコメディであるということを念頭に、鑑賞の際はぜひともフラットなバイオリズムで。

あと、ブラピパートにしかときめくことができなかった…という方も含めてオチは最高です。エンドクレジットが始まっても、しばらくはちゃんと観てくださいね!

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