【2025年3月】劇場で観た映画感想文『Playground 校庭』『フライト・リスク』『ANORA アノーラ』『教皇選挙』(ネタバレあり)

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2025年3月に劇場で観た映画の感想です。

  • Playground 校庭(テアトル梅田)
  • フライト・リスク(T・ジョイ梅田)
  • ANORA アノーラ(大阪ステーションシティシネマ)
  • 教皇選挙(TOHOシネマズ梅田)

賞レースにはあまり関心がないので、この時期(アカデミーウィーク)にも関わらず鑑賞作品選びはマイペースです。

観た作品の中でいちばん楽しかったのは『フライト・リスク』かなあ。意識低めではありますが、メルギブの演出は天才的だし、好きなものは好きなのです。

なお、この月配信で鑑賞した作品については、こちらにまとめています。

オチに関わるネタバレは極力避けていますが、内容には触れています。気になる方はご注意下さい。
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Playground 校庭(テアトル梅田)

7歳の内気な少女ノラは3歳上の兄アベルが通う小学校に入学するが、なかなか友だちができず校内に居場所がない。やがて同じクラスの女の子2人と仲良くなったノラは、ある日、兄が大柄な少年にいじめられている現場を目撃しショックを受ける。ノラは大好きな兄を助けたいと願うも、兄から拒絶されてしまう。その後もいじめは繰り返され、一方的にやられっぱなしの兄の気持ちを理解できないノラは寂しさと苦しみを募らせていく。唯一の理解者だった担任教師が学校を去り、友だちから仲間はずれにされて再びひとりぼっちになったノラは、ある日、校庭で衝撃的な光景を目にする。

引用:映画.com
原題:Un monde/2021年/ベルギー/72分/配給:アルバトロス・フィルム
監督:ローラ・ワンデル/製作:ステファン・ロエスト/脚本:ローラ・ワンデル/撮影:フレデリック・ノワロム/美術:フィリップ・ベルタン/編集:ニコラ・ランプル/音楽:トーマス・グリム=ランズバーグ
出演:マヤ・バンダービーク/ガンター・デュレ/カリム・ルクルー/ローラ・ファーリンデン
陰湿でやるせなく、負のスパイラルが何重にも渦巻いていて、大人はまったく役に立たずどころかよけいなことしかしないんですけど……という、いわゆるイジメあるあるを扱った映画はこれまでにもあったと思います(ぱっと思いつかないんだけど)。でも本作がちょっと新しいのは、結構な数の大人が思い当たりそうなトラウマを、完全に子供の目線(視点が低い、視野が狭い、ピントがぼやけ気味)で再現しているところ。
これはもう、イジメの標的になったことのある人はもちろん、本当は良くないと思っていながら自分が標的にならないよういじめっ子に加担したり、見てみぬフリをしていた人にもかなりキツい体験になるのではないかしら。なんかこう、記憶のフラッシュバックがすごいんです。そうそう、子供のころ、世界ってこんなふうだったって。
去年観た『コット、はじまりの夏』は、子供の頃のいい思い出を追体験するような映画でした。ところが本作は真逆、子供の頃の地獄をじわじわと思い起こさせるような、なかなかにヘビーな作品です。でも主人公のノラちゃんが、悩み戸惑いながらもなんとか前進していく姿は力強くもありまして。
幸い後味はそこまで悪くないので、子供の心を子供の目線で推し量る共感力をなくしてしまった大人はもちろん、閉塞的な環境で人間関係に悩む人も、観れば何らかの得るものがあるような気がします。

フライト・リスク(T・ジョイ梅田)

保安官補のハリスは、ある事件の重要参考人のウィンストンを、アラスカからニューヨークまで航空輸送する任務に就く。初顔合わせとなったベテランパイロットのダリルは、陽気な会話でハリスの緊張をほぐしていく。離陸した機体は、壮大なアラスカ山脈の上空1万フィートまで上昇。頼もしいダリルの腕前もあって、順風満帆なフライトになるかに思えた。一方、後部座席につながれたウィンストンは、足もとにパイロットライセンス証が落ちているのを見つける。そのライセンス証の顔写真は、いま飛行機を操縦しているダリルとは全くの別人のもので……。

引用:映画.com
原題:Flight Risk/2024年/アメリカ/91分/配給:クロックワークス
監督:メル・ギブソン/製作:ジョン・デイビス ジョン・フォックス ブルース・デイビ メル・ギブソン/製作総指揮:アレックス・ルボビッチ ジェニー・ヒンキー ビッキー・クリスチャンソン ニック・グエラ ポール・J・ディアス ペトル・ヤークル ライアン・ドネル・スミス ナターシャ・スタッセン アレン・チェイニー/脚本:ジャレッド・ローゼンバーグ/撮影:ジョニー・デランゴ/美術:デビッド・メイヤー/編集:スティーブン・ローゼンブラム/音楽:アントニオ・ピント
出演:マーク・ウォールバーグ/ミシェル・ドッカリー/トファー・グレイス
ライターと映画製作者用のマッチングサイト、ブラックリストに登録されていた脚本をメル・ギブソンが自らピックアップしたそうです。マーク・ウォールバーグを起用したのも、メルさん自身なんだそうで。勝手に『パッション』の続編を作るための(お金を稼ぐための)頼まれ仕事だと思っていたので、この話を聞いた時にはちょっと驚きました。
内容はごくシンプルなシチュエーションスリラー。いわゆる「証人輸送もの」で、マーク・ウォルバーグ演じる落ち武者系サイコパスとミシェル・ドッカリー演じるワケあり保安官補、彼女が護送するある事件の重要参考人(トファー・グレイス演じるボンクラ会計士)の攻防が描かれます。あとは舞台が飛行機内なので、声のみで出てくる管制官と、主人公の保安官補の仲間や上司がいるくらい。
お話はいくつかの要素が絡みあって進むものの、それらひとつひとつのエピソードは、パイロットが異常者だった場合素人がどう飛行機を操るか、そもそもこの状況に追い込まれた背後には裏切り者がいるっぽい、といった、この手の映画にありがちなものばかり。でもそれらをリンクさせたり、登場人物を掘り下げたりする際の情報の出し方が説明的じゃないし、サングラス、ナイフ、IDカード等々の小物使いも絶妙で。ところどころアクションも挟まるから緩急もあって、とにかく最初から最後まで飽きません。これはひとえにメルギブの演出の的確さのたまものです。素材がシンプルだからこそ、技が光るというわけですね。
そんなわけで、時期柄オスカー関連作品が目白押しの中、かなりの小品ではありますが私としては超満足。メルギブの監督としての才気はまだまだ健在だとほっと安心したのですが……最後にひとつだけ気になったところをお伝えしておくと、飛行機の中という設定からいわゆるスペクタクル(VFX等)を期待すると肩透かしかもしれません。私はこの辺に関しては「クオリティがそれほどではないのにまあまあ怖いからすごい」とよい方向に受け止めたのですが、許せるラインは人によって異なります。これから本作をご覧になる方は、どうかここに関してはハードルを低めに設定していただいて、そのぶん演出や演技などで楽しんでいただけるとよいのではないかと思います。



ANORA アノーラ(大阪ステーションシティシネマ)

ニューヨークでストリップダンサーをしながら暮らすロシア系アメリカ人のアニーことアノーラは、職場のクラブでロシア人の御曹司イヴァンと出会い、彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5000ドルの報酬で「契約彼女」になる。パーティにショッピングにと贅沢三昧の日々を過ごした2人は、休暇の締めくくりにラスベガスの教会で衝動的に結婚する。幸せ絶頂の2人だったが、ロシアにいるイヴァンの両親は、息子が娼婦と結婚したとの噂を聞いて猛反発し、結婚を阻止すべく、屈強な男たちを2人のもとへ送り込んでくる。ほどなくして、イヴァンの両親もロシアから到着するが……。

引用:映画.com
原題:Anora/2024年/アメリカ/139分/配給:ビターズ・エンド
監督:ショーン・ベイカー/製作:アレックス・ココ サマンサ・クァン ショーン・ベイカー/製作総指揮:グレン・バスナー ミラン・ポペルカ アリソン・コーエン クレイ・ペコリン ケン・マイヤー/脚本:ショーン・ベイカー/撮影:ドリュー・ダニエルズ/美術:スティーブン・フェルプス/衣装:ジョスリン・ピアース/編集:ショーン・ベイカー/音楽監修:マシュー・ヒアロン=スミス
出演:マイキー・マディソン/マーク・エイデルシュテイン/ユーリー・ボリソフ/カレン・カラグリアン
ショーン・ベイカーは大好きです。オスカーがらみでいちばん期待していたし、実際最多5冠、しかも史上初ショーン・ベイカーが1人で4冠という快挙を成し遂げ話題になったわけですが……。
おもしろかったです。基本的には。ただ長い。特に前半。アノーラとドラ息子が札束をまき散らしながらラブラブする下りはぶっちゃけフリなので、何なら10分くらいでいいはず。本作が往年のスクリューボールコメディをベースにしていることは既にいろいろな場所で語られているわけですが、だったらテンポってとっても大事じゃないですか。それなのにいよいよおもしろくなるドラ息子失踪編にたどり着くころにはすっかり疲れてしまって、若干ダレちゃいました。
でもそのあとはさすがのショーン・ベイカー節で、アノーラも含めて全員どこか憎めないバカでよかったです。ドラ息子の親も成金丸出しで相当嫌な人たちなんですけど、息子のこと、案外バカにしてるんですよね。ボディーガードの男たちもどこか間抜けだし。ここからはテンポも相まって、延々続くマンガみたいなシーンが楽しいです。
ただやっぱり、これまでのショーン・ベイカー作品(私が観ているのは『タンジェリン』以降)と比べると満足感は若干薄め。恋愛がベースになっているからなのか、ラストなんかはちょっと(ショーン・ベイカーにしては)ウェットに感じてしまいました。アノーラという女性の哀しさを表現するにしても、もっとユーモアの感じられるやり方があったような気が。あとインティマシーコーディネーターをつけなかったことが物議をかもしているけど、これもなあ。マイキー・マディソンはかなり気を遣ったコメントを残しているけれど、ある程度の注目作となることはわかりきっているんだから後進のためにも制作側が主導してつけるべきでした。だって「オスカー作品がつけてないんだから」みたいに言われて、つけたくてもつけてもらえないみたいなことが今後起こらないとは限らないじゃない。
というわけで、凡百の映画より全然おもしろいことは間違いないのだけど、私はやっぱり前作『レッド・ロケット』が好きかなあ。
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教皇選挙(TOHOシネマズ梅田)

全世界14億人以上の信徒を誇るキリスト教最大の教派・カトリック教会。その最高指導者で、バチカン市国の元首であるローマ教皇が亡くなった。新教皇を決める教皇選挙「コンクラーベ」に世界中から100人を超える候補者たちが集まり、システィーナ礼拝堂の閉ざされた扉の向こうで極秘の投票がスタートする。票が割れる中、水面下でさまざまな陰謀、差別、スキャンダルがうごめいていく。選挙を執り仕切ることとなったローレンス枢機卿は、バチカンを震撼させるある秘密を知ることとなる。

引用:映画.com
原題:Conclave/2024年/アメリカ・イギリス合作/120分/配給:キノフィルムズ
監督:エドワード・ベルガー/製作:テッサ・ロス ジュリエット・ハウエル マイケル・A・ジャックマン アリス・ドーソン ロバート・ハリス/製作総指揮:スティーブン・レイルズ グレン・バスナー アリソン・コーエン ミラン・ポペルカ ベン・ブラウニング レン・ブラバトニック ダニー・コーエン マリオ・ジャナーニ ロレンツォ・ガンガロッサ エドワード・ベルガー レイフ・ファインズ ロビン・スロボ ピーター・ストローハン トーマス・アルフレッドソン/原作:ロバート・ハリス/脚本:ピーター・ストローハン/撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ/美術:スージー・デイビス/衣装:リジー・クリストル/編集:ニック・エマーソン/音楽:フォルカー・ベルテルマン/キャスティング:ニーナ・ゴードン マーティン・ウエア
出演:レイフ・ファインズ/スタンリー・トゥッチ/ジョン・リスゴー/カルロス・ディエス/ルシアン・ムサマティ/オマリーブライアン・F・オバーン/サバディンメラーブ・ニニッゼ/セルジオ・カステリット/イザベラ・ロッセリーニ

こちらもオスカーノミネート作品。原作が『ゴーストライター』ロバート・ハリス、脚色が『裏切りのサーカス』ピーター・ストローハンによるベテラン仕事ということで、普通に面白いミステリーとなっていました。

見どころとしては、システィーナ礼拝堂の巨大セットとか、中二感爆発な投票システムとか。いろいろあるのですが、個人的に印象に残ったのはやはりおじさまキャストたちの競演です。レイフ・ファインズ然り、ジョン・リスゴー然り、この道何十年という積み重ねのある名優の方々ですから演技が素晴らしいのは当然なのですが、やっぱり顔ですよ顔。年齢を重ねた人の顔って本当に迫力があって素晴らしいですね。脚本の優れた映画ということもあって、登場人物には絶妙な個性とさまざまな局面が用意されており、楽しめる表情も困ったり怒ったり疲れたり欲深くなったり本当に豊かで、これだけで私はご飯が2、3杯おかわりできるてしまう感じです。

オスカーがらみの作品は毎年さほど熱心にチェックしない上に、今年は私の得意としない音楽ものやミュージカルが多くてほとんど観てません。でもしっかり格調が高くて、なのにちゃんと楽しめて、巨大で閉鎖的な宗教組織への批判もちゃんと描かれていて、多すぎる男性キャストとバランスを取るかのように配置されたイザベラ・ロッセリーニの迫力も超圧巻で。ロングランヒットしてるというのも納得の、今のところ観た今年のオスカーがらみの作品の中ではいちばん気に入っております。
そういえば2019年には、Netflix製作で『2人のローマ教皇』という、これまたおじさまが魅力的な作品がありましたが、こちらと細部を見比べてみるのもおすすめですよ。
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