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2024年9月の映画感想文は、「劇場鑑賞分」と「配信鑑賞分」に分けて作成しています。
こちらは配信で鑑賞した作品の感想です。
自分のための覚え書き的なものなので、ごく簡単なメモのような内容ですがご了承ください。
- 恋するプリテンダー(配信/Prime Video)
- 梟 フクロウ(配信/Prime Video)
- コット、はじまりの夏(配信/Prime Video)
- Chime(Roadstead)
- 異人たち(配信/Prime Video)
- ジャックポット!(配信のみ/Prime Video)
- 犯罪都市 NO WAY OUT(配信/Prime Video)
- 僕らの世界が交わるまで(配信/Prime Video)
- レベル・リッジ(配信のみ/Netflix)
- ウルフズ(配信のみ/Apple TV+)
画像:映画.com
今月の配信作品は、黒沢清『Chime』、ジョン・ワッツ『ウルフズ』、ジェシー・アイゼンバーグ『僕らの世界が交わるまで』と、好き、もしくは注目している監督の作品が多く、どれもわくわくしながら鑑賞しました。
中でも気に入ったのは、ジェレミー・ソルニエ監督の『レベル・リッジ』。ストーリーこそシンプルなアクションものですが、画作り、話運び、アクション含む演出等々、監督独特の感性が遺憾なく発揮されていて大満足でした。
同月、劇場で観た作品については、こちらでまとめています。

このあとネタバレがあります。気になる方はご注意下さい。
恋するプリテンダー(配信/Prime Video)
弁護士を目指してロースクールに通うビーは、街角のカフェで知り合った金融マンのベンと最高の初デートをするが、ちょっとした行き違いが原因で燃え上がった恋心も一気に凍りついてしまう。数年後、そんな2人がオーストラリアで同じ結婚式に出席して偶然に再会。真夏のリゾートウェディングに皆が心躍らせる中、険悪なムードを漂わせる2人。しかし、復縁を迫る元カレから逃げたいビーと元カノの気を引いてヨリを戻したいベンは、互いの望みをかなえるために恋人のフリをすることになり……。
引用:映画.com
ふだんあまりロマコメは観ないのですが、今をときめくシドニー・スウィーニーとグレン・パウエルが主演ということで鑑賞しました。
たしかに今現在波に乗りまくっているスターの競演は魅力的ではありましたが、やっぱりロマコメの楽しみ方がいまひとつ分からないわたし。とりわけこのジャンルに多い「常識的な倫理観で考えれば大いにアウトなシチュエーションでの告白」(よくあるのが、空港で飛行機を止めるとかですね)みたいなのがもう全然ダメで。恋しちゃってるからって何でも許されるわけじゃないんだよ……とか、そういうツッコミが野暮なことは重々承知なんですが。
まあなんていうか、こういうジャンルはホント、もともとの素養もなければ年齢的にも楽しむことが厳しくなってきているのかもしれません。ただウィル・グラック監督は基本的には手堅い職人監督だと思っていますし、世界的にもとてもヒットしていますし。ジャンルが好き、出演しているスターが好きな人には、たぶん観て損はない作品じゃないのかなと思います。オーストラリアのロケーションも美しかったので、旅行とか留学したことのある人にもおすすめです。
梟 フクロウ(配信/Prime Video)
盲目の天才鍼医ギョンスは病の弟を救うため、誰にも言えない秘密を抱えながら宮廷で働いている。ある夜、ギョンスは王の子の死を“目撃”してしまったことで、おぞましい真実に直面する事態に。追われる身となった彼は、朝日が昇るまでという限られた時間のなか、謎を暴くため闇を駆けるが……。
引用:映画.com
朝鮮王朝時代の記録に残る「謎の死」を題材にしたサスペンスです。
脚本、演出、撮影、演技……どこを切り取っても一流のお仕事で、見終わってみてびっくりしたのは、上映時間が2時間を切っているということ。もっとあったような気がした、というと、退屈だったの?と思われるかもしれませんが、そうじゃなくて、密度がすごいの。3時間くらいの映画みたいなボリュームだった。でもテンポがいいので体感は30分。いい意味で感覚のバグる体験でした。
印象に残っているシーンはいろいろ思い浮かぶのですが、さほど難解というわけでもない万人向きのサスペンスながら、ややビターな締めくくり。そんな大人っぽい作劇に、アジア圏でもトップクラスに好調な韓国映画の自信と余裕を感じました。また盲目の主人公というメタファーとも取れる深みのある設定や、そんな彼の心許なさと、さらにそれと対を成す繊細さや鋭敏さが的確かつ過不足なく伝わるカメラワークや照明も見事でした。
コット、はじまりの夏(配信/Prime Video)
1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中でひとり静かに暮らす寡黙な少女コットは、夏休みを親戚夫婦キンセラ家の緑豊かな農場で過ごすことに。はじめのうちは慣れない生活に戸惑うコットだったが、ショーンとアイリンの夫婦の愛情をたっぷりと受け、ひとつひとつの生活を丁寧に過ごす中で、これまで経験したことのなかった生きる喜びを実感していく。
引用:映画.com
こじんまりした佇まいのタイトルながら、ふだんこういうテイストの作品をそれほど嗜まないだろう何人かの信頼出来る人が絶賛していたので鑑賞しました。
予告やビジュアルのイメージから想像していた通りの内容だったにも関わらず、なんだろう、すごくいい。決して派手さのある物語ではないからこそ際立つ脚本、演出、撮影、照明、キャストの素晴らしさはもちろんのこと、すごく丁寧に、大事に、愛情を持って作られた映画だなあという、作品そのものの素晴らしさにプラスして、さらに何割か増しの満足感を得られた作品です。
きらきらと降り注ぐ木漏れ日や草いきれなど、多くの大人が幼少期のスケールで記憶している断片的な印象や、夏休みなどに親戚の家で過ごした際の、家とは違う匂いや佇まい、最初は不安ばかりだったそれらがしだいに好ましい思い出に変わっていく感じとか、子供の頃に経験した、すっかり忘れていた感覚が怖いくらいのさリアルさで蘇って、鑑賞後はしばらく後を引きました。
Chime(Roadstead)
料理教室で講師として働いている松岡卓司。ある日のレッスン中に、生徒のひとりである田代一郎が「チャイムのような音で、誰かがメッセージを送ってきている」と不思議なことを言い出す。事務員のあいだでも田代は少し変わっていると言われているが、松岡は気にせず接していた。しかし別の日の教室で、田代は「自分の脳の半分は機械に入れ替えられていてる」と言い出し、それを証明するために驚きの行動に出る。これをきっかけに松岡の周囲で次々と異変が起こり始め……。
引用:映画.com
一部では劇場公開されていた本作ですが、本来はRoadstead(ロードステッド)という、次世代の配信プラットフォームのために製作された作品です。
まずはこのRoadstead(ロードステッド)というのが(わたしもはじめて利用したのですが)なかなか面白いシステムで。自主製作で頑張っているクリエイターやさんや、そういう人を応援したいと思っている人は、ぜひ活用してみてください。
映画の内容はというと、45分の中編ということもあって、グロ増量な「世にも奇妙な物語」といった感じ。現実と妄想の境目が曖昧な、悪夢のような世界を引っ張り回されるような黒沢清監督の持ち味も良く出ていて、懐かしさも覚えつつ楽しむことができました。
『Chime』というタイトルからも推察できる通り、音にこだわったつくりとなっていますので、鑑賞の際にはヘッドフォンの使用をおすすめします。
異人たち(配信/Prime Video)
12歳の時に交通事故で両親を亡くし、孤独な人生を歩んできた40歳の脚本家アダム。ロンドンのタワーマンションに住む彼は、両親の思い出をもとにした脚本の執筆に取り組んでいる。ある日、幼少期を過ごした郊外の家を訪れると、そこには30年前に他界した父と母が当時のままの姿で暮らしていた。それ以来、アダムは足しげく実家に通っては両親のもとで安らぎの時を過ごし、心が解きほぐされていく。その一方で、彼は同じマンションの住人である謎めいた青年ハリーと恋に落ちるが……。
引用:映画.com
大林版はずいぶん昔に鑑賞済み。ただし秋吉久美子さんのフェロモンがすごくてちょっと受け付けなかったというか……いや、俳優として素晴らしい方だとは思うんですよ。ただこのときは、見た目は大人な子供に接するさまがなんというか、当時まだこの言葉はなかったはずですが「セクハラ」ぽく感じてしまい、気まずかった思い出しかないんですよね。その空気感をまといつつ、人情ものっぽくなったり、ホラーぽくなったりする後半の展開もなんだかちょっと合わなくて(大林宣彦監督自体も嫌いじゃないです)、そのあたり今回はどうなっているんだろう? そんな興味から鑑賞してみましたが、なんだよすごくいいじゃない……っていうか、今年いちばん泣きました。
主人公がゲイで、彼らが今よりずっと生きづらかった時代が舞台で……となると、当事者以外にはあまり響かないお話なのかなと捉える向きも多いかもですが、理由は何であれマジョリティに交われず、多感な時期に孤立したまま年齢を重ねてしまった人って、結構いると思う。本作はそんな層にすごく響くと思います。でも響くから観た方がいいよ、とは言いにくい。それはわかりやすいハッピーエンドじゃないからだし、うっかり没入しすぎるとちょっと危ない気もするからで。
とはいえ、映画としてとても優れていると思うので、予告やあらすじを見て気になる人にはおすすめです。鑑賞前には、大林版は(あまりにアプローチが異なるので)ともかく、山田太一の原作にもあまり気を取られないほうがいいと思います。ラブシーンがなかなか濃厚なので、苦手な人はそこも注意してくださいね。
ジャックポット!(配信のみ/Prime Video)
とある未来、特別な宝くじが発行される。当選者か、当選者を日没までに殺した者が数十億ドルを獲得できるルールであり、その場合の殺人は合法である。ケイティ・キム(オークワフィナ)は思いがけず当選券を手にした。逃げるためにやむなくアマチュアのボディーガードであるノエル・キャシディ(ジョン・シナ)と手を組む。彼は賞金の一部と引き換えに、ケイティを日没まで守り抜くと約束した。
引用:映画.com
オークワフィナにジョン・シナ、さらにはシム・リウ……という売れっ子スターの競演だし、「パージ」を彷彿とさせるようなアイデアをコメディタッチでやろうという意図も悪くない。なのに脚本が雑すぎる。なんでももうちょっと練らなかった。キャストもポール・フェイグ監督も大好きなだけにもったいない。
とはいえボケ役のジョン・シナと天性のツッコミスキルを持つオークワフィナ掛け合いはそれなりに楽しいし、スター的な華というか、しっかりオーラのあるシム・リウも魅力的。どうしても期待してしまう座組みなだけに大満足とはいかなかったけど、またこのメンバーで何かやってほしいとは思います。
ポール・フェイグ監督も本来は器用なはずだからジャンルは何でもいいんだけど、個人的にはそれなりに地に足の付いたコメディタッチの人間ドラマが観たいかも。『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』みたいな、現代ものの楽しいやつ。
犯罪都市 NO WAY OUT(配信/Prime Video)
7年前のベトナムでの凶悪犯一斉検挙に関わった怪物刑事マ・ソクトは、ソウル広域捜査隊に異動し、ある転落死事件を捜査していた。そして捜査を進める中で、事件の背後に新種の合成麻薬と、日本のヤクザが関わっているという情報を掴む。一方、ヤクザの一条親分は、麻薬を盗んだ組織員たちを処理するため、「ヤクザの解決屋」と呼ばれる極悪非道な男リキを、極秘裏にソウルへ送りこむ。さらに汚職刑事のチュ・ソンチョルが消えた麻薬の奪取をもくろんでおり、マ・ソクトはリキ、チュ・ソンチョルという2人の凶悪な敵を相手に、三つどもえの戦いを繰り広げる。
引用:映画.com
マ・ドンソクが自分とファンのために作り続けるシリーズという印象。毎回安定して楽しいですが、今作は特にコメディ、というよりコントっぽいパートが強化されている気が。シリーズものは回を重ねてくるとどうしても飽きてくるので、若干雰囲気を変えてっていうのは当然の試みだし、ちゃんと成功していておもしろいとは思うんだけど、前作、前々作が好きすぎるといまいち乗り切れないという人もいそうな感じではあります。
このシリーズやマ・ドンソクにそこまで極端な思い入れのないわたしとしては、間違いなく誰もが期待するアクションのクオリティはしっかり担保した上で、自分の見せ方を工夫しているマ・ドンソクのセルフプロデュース力すごいなと感じました。自分がかわいいこと、ちゃんと分かってるんですよね。
僕らの世界が交わるまで(配信/Prime Video)
DV被害に遭った人々のためのシェルターを運営する母エブリンと、ネットのライブ配信で人気を集める高校生の息子ジギー。社会奉仕に身を捧げる母と自分のフォロワーのことで頭がいっぱいのZ世代の息子は、お互いのことを分かり合えず、すれ違ってばかり。そんな2人だったが、各々がないものねだりの相手にひかれて空回りするという、親子でそっくりなところもあり、そのことからそれぞれが少しずつ変化していく。
引用:映画.com
ジェシー・アイゼンバーグ初監督作品(脚本も)、エマ・ストーンが立ち上げた制作会社「フルート・ツリー」、第1回製作作品ということで話題になりました。
フィン・ウルフハード演じるジギーの思春期あるある過ぎるアレな感じも辛いですが、立場的に今の自分と被る可能性が高いジュリアン・ムーア演じるエブリンの、若者に対する完全にアウトな距離感がキツい。ここまであからさまなことはまずしないと思うけど気を付けよう。テンション高めのほろ酔いで、甲高い声で騒ぐエブリン。本当に観てるの辛かった。
とにかくこの主演の二人が次から次へと投げつけてくる共感性羞恥がかなり厳しいのですが、その一方で彼らは自分のことをだんだん自覚していくし、大切な人とわかり合いたいとも思っていて。悪気がないから嫌いになれない。関わりたくはないし好きにはなれないけど、親近感が沸きすぎてついつい頑張って欲しいとは思ってしまう。
そもそも息子と母親の関係をこういう滑稽なノリで描く作品て思いつかないので(娘と父親とかのほうがコメディになりやすい気がするのです、例がパッと浮かばないのですが)、それだけでジェシー・アイゼンバーグの才気を感じる気がします。フィン・ウルフハード、ジュリアン・ムーアというキャスティングも絶妙だし、全編フィルム撮影のルックもあたたかみがあって内容にぴったりで。
とにかくセンスのかたまりみたいな作品でした。すでに映画祭などで評判になっている、来年1月に日本公開予定のジェシー監督作『リアル・ペイン 心の旅』も、今からとても楽しみなのであります。
レベル・リッジ(配信のみ/Netflix)
テリー・リッチモンドは従弟の保釈を申請するため田舎町シェルビー・スプリングスを訪れるが、路上で警官から因縁をつけられ、保釈金として用意していた現金を不当に押収されてしまう。従弟はギャングが起こした事件の証人となったために報復される可能性が高く、刑務所へ移送される前に保釈させる必要があった。テリーは裁判所職員サマーの協力を得て、警察署長バーン率いる悪徳警官たちに立ち向かうことを決意するが……。
引用:映画.com
ジェレミー・ソルニエ監督といえば2015年の『ブルー・リベンジ』。追い詰められた気弱な男が、やがて狂気に駆られていくさまを抑えたトーンで描いた佳作で、50年代のクライムものぽい生々しさと、初期の北野映画みたいな構図や色味の美しさに怖いくらいにはまってしまい、2015年のベスト10にも選んだ記憶があります。
今作『レベル・リッジ』は、その『ブルー・リベンジ』の主人公の強い(海兵隊の指導員みたいな設定)版。今は一般市民として穏やかに暮らしたいと思っている主人公テリーですが、腐敗しきった田舎町の警察は、テリーが穏便にやり過ごそうとすればするほど調子に乗って、彼を追い込んでいきます。テリーは陰湿な嫌がらせに極限まで耐え、なんとか暴力以外の方法でトラブルを解決せんと奔走するのですが……。
監督の持ち味でもある硬質なルックで、「舐めてた奴が実は○○」というジャンルもののド定番が楽しめれば最高じゃんとか思っていたら、警察腐敗の経緯など社会派の側面もじっくり描かれている骨太な作品で驚きました。同時に閉鎖的な土地でなんとか自分たちの生活を守ろうとしている人たちに向けられる、どこか優しいまなざしも印象的で。
とはいえウェットなところは微塵もなく、独特の緩急はS・クレイグ・ザラーの『デンジャラス・プリズン 牢獄の処刑人あたりが近いんだけど、今作はそれよりはもうちょっとバイオレンス控えめ(ただしリアルさにこだわったアクションは超かっこいい)なので、気になる人はどうぞ観てみてください。刺さる人にはドンピシャで刺さると思います。
ウルフズ(配信のみ/Apple TV+)
重大事件を隠蔽する裏社会のもみ消し屋=フィクサーのジャックは、ある男を始末する依頼を受ける。早速現場へ足を運んだものの、そこへもう1人のフィクサーであるニックが現れ、なぜか同じ依頼を受けていたことが判明。これまで一匹狼として暗躍してきたジャックとニックは渋々ながらも2人で仕事に取り掛かるが、死んだと思われていたターゲットの男が生きており、逃げ出してしまう。慣れないタッグでターゲットを追ううちに、彼らは謎の組織の犯罪に巻き込まれていき……。
引用:映画.com
ブラピとジョージ・クルーニー、2大スターの粋な掛け合いを楽しむ、とにかくそのことに特化された内容です。
この二人が主演で、現場で鉢合わせた殺し屋という役どころと聞くと、ひたすらハードボイルドでおしゃれなのかと思いきや、俺はモテるマウントとか中年あるあるネタ(老眼とか腰痛とか)で貶め合うとか、もうほんと小せえ小せえ。でもそんなことだって、大スターがやってると思うと急におもしろくなるんですね。女子は「やだかわいい」となるだろうし、男子は「お前らもか」と親近感が沸くわけです。
アクションもの、クライムものとしてはやや弱く、ジョン・ワッツ監督だからと言って『コップ・カー』みたいなキレのよさを期待するとやや肩透かし。ただこれ、続編が決まったとのことで、たぶん最初からある程度そんな前提だったんでしょう。彼らのバックボーンとか、今回あまりに説明が少なかった部分は、これから徐々に明かされるんじゃないかと。それもあって今作では、ぶっちゃけ全編ほとんど中年二人のイチャイチャしかないのですが、逆に言えばそれだけで持ってしまうのだからやっぱりスターは凄いなと思いました。