【2024年9月】劇場で観た映画感想文『侍タイムスリッパー』『Cloud クラウド』『憐れみの3章』他全7本(ネタバレ)

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2024年9月に、劇場で観た新作映画の感想を書いています。

自分のための覚え書き的なものなので、ごく簡単なメモのような内容ですがご了承ください。

ラインナップはこちらです。

  • モンキーマン(TOHOシネマズ梅田)
  • アシッド(大阪ステーションシティシネマ)
  • サユリ(T・ジョイ梅田)
  • エイリアン ロムルス(イオンシネマ シアタス心斎橋)
  • 侍タイムスリッパー(イオンシネマ 大日)
  • Cloud クラウド(テアトル 梅田)
  • 憐れみの3章(TOHOシネマズ梅田)

わたしにしてはめずらしく邦画が3本。いずれも評判の作品で大変おもしろかったのですが、特に『Cloud クラウド』はひさびさに濃厚な黒沢節に、『侍タイムスリッパー』は思いがけず壮大なテーマに心打たれました。

同月、配信で観た作品については、こちらでまとめています。

オチに関わるネタバレは極力避けていますが、内容には触れています。気になる方はご注意下さい。
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モンキーマン(TOHOシネマズ梅田)

幼い頃に故郷の村を焼かれ、母も殺されて孤児となったキッド。どん底の人生を歩んできた彼は、現在は闇のファイトクラブで猿のマスクを被って「モンキーマン」と名乗り、殴られ屋として生計を立てていた。そんなある日、キッドはかつて自分から全てを奪った者たちのアジトに潜入する方法を見つける。長年にわたって押し殺してきた怒りをついに爆発させた彼は、復讐の化身「モンキーマン」となって壮絶な戦いに身を投じていく。

引用:映画.com
原題:Monkey Man/2024年/アメリカ・カナダ・シンガポール・インド合作/121分/配給:パルコ/R15+
監督:デブ・パテル/製作:デブ・パテル ジョーモン・トーマス ジョーダン・ピール ウィン・ローゼンフェルド イアン・クーパー ベイジル・イバニク エリカ・リー クリスティーン・ヘーブラー サム・サーヘニー アンジェイ・ナグパル/製作総指揮:ジョナサン・ファーマン ナタリヤ・パブチンスカヤ ジェイソン・クロス スラージ・マラボイーナ アダム・ソーメル アーロン・L・ギルバート アンドリア・スプリング アリソン=ジェーン・ロニー スティーブン・ティボー/脚本:デブ・パテル ポール・アングナウェラ ジョン・コリー/撮影:シャロン・メール/美術:パワス・サワットチャイヤメト/衣装:ディビア・ガンビール ニディ・ガンビール/編集:ダービド・ヤンチョ ティム・マレル ジョー・ガルド/音楽:ジェド・カーゼル
出演:デブ・パテル/シャルト・コプリー/ピトバッシュ/ビピン・シャルマ/シカンダル・ケール/アディティ・カルクンテ/ソビタ・ドゥリパラ/クィーニーアシュウィニー・カルセカル/バーバ・シャクティマカランド・デシュパンデ/ジャティン・マリク/ザキール・フセイン

デブ・パテルというと『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』とか『LION ライオン 25年目のただいま』とか。ハートフルな人間ドラマによく出てる品行方正風な人という印象が強いですが、実はテコンドーの世界大会で銅メダルのガチ肉体派ということで、もともとこういうのやりたかったんだね!こういうの大好きだったんだね!!

本作は彼のそんな思いがほとばしる、とても初々しい初監督作品となっていました。アクションもシチュエーションごとに『ジョン・ウィック』風味だったり、アジアンテイスト(韓国ぽさやブルース・リーオマージュ)強めだったり、とにかく趣向が次々変わるし、お話のほうも政権批判あり、反トランス差別(合ってる?)ありで、デブ・パテルのやりたいことと世の中への憤りがストレートにぶちこまれていて。

まとまりという点では若干うまくいってない(特に後半)ところなんかもあるんですが、熱量がすごいので退屈はしないっていうか、彼の憤りはまっとうだし、それを吐き出すことが楽しくてたまらない感じがこちらにも伝播して、なんだかとてもほっこりしました。製作中は大変なことも多かったみたいで、お蔵入りになりかけたところをジョーダン・ピールが製作を買って出てくれたというのも、なんだか微笑ましいエピソードです。

アシッド(大阪ステーションシティシネマ)

異常な猛暑に見舞われたフランスの上空に、不気味な雲が現れる。それは南米に壊滅的な被害をもたらした酸性雨を降らせる危険な雲で、人間や動物のみならず車や建造物までも溶かしてしまう恐ろしいものだった。北部の地方都市に住む中年男性ミシャルと元妻エリースは、寄宿学校に預けていた娘セルマをどうにか救出したものの、酸性雨はあらゆるものを焼き尽くすように溶かし、大勢の命を奪っていく。フランス全土が大混乱に陥るなか、一家は安全な避難場所を求めてあてどなく歩き続ける。しかし彼らの行く手にはすさまじい群衆パニックと、高濃度酸性雨のさらなる恐怖が待ち受けていた。

引用:映画.com
原題:Acide/2023年/フランス/100分/配給:ロングライド
監督:ジュスト・フィリッポ/製作:イブ・ダロンド エマニュエル・プリウー クレマン・ルヌバン アルダバン・サファイー/脚本:ヤシネ・バッダイ ジュスト・フィリッポ/撮影:ピエール・ドゥジョン/美術:グウェンダル・ベスコン/衣装:サブリナ・リッカルディ/編集:ピエール・デシャン/音楽:ロブ
出演:ギョーム・カネ/レティシア・ドッシュ/ペイシェンス・ミュンヘンバッハ/マリー・ユンク/スリアン・ブラヒム/マルタン・ベルセ/クレマン・ブレッソン
まず、人のみならず、車や建物も溶かしてしまうレベルの超強力な酸性雨が降ってくるというアイデアが楽しい。加えて予告編でも、酸性雨がいろいろなものを溶かすときの煙が霧みたいだったり、陰鬱な曇り空のくすんだ森や町の風景が絶妙だったり。ビジュアルもとても好印象だったので、それなりに期待して劇場へと足を運んだのですが……。
さすがにストーリーが平板すぎるし、主人公もあまり魅力的じゃない。ピンチのきっかけを次から次へと作ってしまうのはティーンだから仕方なしと自分に言い聞かせてみましたが、それにしたって最後までほとんど変化(成長とか)しないのは観ていてキツくなってきます。先に書いたルックの部分や、追い詰められたり、すっかり混乱してしまった状況下での人間の振るまい、群衆の恐怖などわりとおもしろいポイントもあるにはあるのですが、上映時間がそこそこ長いこともあって手放しでオススメとは言いづらい、もったない作品でした。



サユリ(T・ジョイ梅田)

念願の一戸建てに引っ越してきた神木家。夢のマイホームでの生活がスタートしたのもつかの間、どこからか聞こえる奇怪な笑い声とともに、家族が一人ずつ死んでいくという異常事態が発生。神木家を襲う恐怖の原因は、この家に棲みつく少女の霊「サユリ」だった。一家の長男・則雄の前にもサユリの影が近づき、則雄はパニック状態に陥る。そこへ認知症が進んでいるはずの祖母・春枝がはっきりと意識を取り戻して現れ、「アレを地獄送りにしてやる」と力強く言い放つ。則雄は祖母と2人、家族を奪ったサユリへの復讐戦に挑む。

引用:映画.com
2024年/日本/108分/配給:ショウゲート
監督:白石晃士/原作:押切蓮介/脚本:安里麻里 白石晃士/撮影:伊藤麻樹/編集:宮崎歩
出演:南出凌嘉/近藤華/梶原善/占部房子/きたろう/森田想/猪股怜生/根岸季衣
話題になっていただけあっておもしろかったです。サユリの痛ましすぎる過去と、悪霊を寄せ付けない某呪文の食い合わせが微妙でやや引っかかったものの、勢いで引っ張られて気がつけばどうでもよくなっているという力強さ。さらに予想とまったく正反対の展開へ導かれて行くワクワク感も心地よかった。『女優霊』世代なので、根岸季衣さんの突き抜けた演技も眼福だったし、劇場内が若者だらけだったのも嬉しくて。上映中少々騒がしいのもなんか気になるけどまあいいかと思える多幸感に溢れた鑑賞体験となりました。

エイリアン ロムルスイオンシネマ シアタス心斎橋)

人生の行き場を失った6人の若者たちは、廃墟と化した宇宙ステーション「ロムルス」を発見し、生きる希望を求めて探索を開始する。しかしそこで彼らを待ち受けていたのは、人間に寄生して異常な速さで進化する恐怖の生命体・エイリアンだった。その血液はすべての物質を溶かすほど強力な酸性であるため、攻撃することはできない。逃げ場のない宇宙空間で、次々と襲い来るエイリアンに翻弄され極限状態に追い詰められていく6人だったが……。

引用:映画.com
原題:Alien: Romulus/2024年/アメリカ/119分/配給:ディズニー/PG12
監督:フェデ・アルバレス/製作:リドリー・スコット マイケル・プラス ウォルター・ヒル/製作総指揮:フェデ・アルバレス エリザベス・カンティロン ブレント・オコナー トム・モラン/キャラクター創造:ダン・オバノン ロナルド・シャセット/脚本:フェデ・アルバレス ロド・サヤゲス/撮影:ガロ・オリバレス/美術:ネイマン・マーシャル/編集:ジェイク・ロバーツ/音楽:ベンジャミン・ウォルフィッシュ/視覚効果監修:エリック・バーバ
出演:ケイリー・スピーニー/デビッド・ジョンソン/アーチー・ルノー/イザベラ・メルセド/スパイク・ファーン/エイリーン・ウー
まずわたしと『エイリアン』について少しだけお知らせしておくと、いちばんお気に入りなのはやはり1作目、1979年の『エイリアン』。次点は『3』、あとは『プロメテウス』『コヴェナント』『4』『2』という感じ。世間的に人気の高い『2』がなぜこのポジションかというと、まずは単純にホラーからSFアクションになってしまったから。そしてわたしは(今でも)キャメロンとは思想(特に女性観)が決定的に相容れないから。
そんなわたしなので、1作目と2作目のいいとこ取りをしている本作に関してのざっくり感想は「まあ普通」。とはいえ決して嫌いではなくて、キャストを若手に刷新してご新規さんにアピールしつつ、アクション要素もホラー要素もてんこ盛り。さらには古参への接待(やややり過ぎのような気もするけど)も忘れずに、一定以上のクオリティの娯楽映画を完成させて、しかもそれを次に繋がりそうなレベルでヒットさせたのは素晴らしいことだと思っています。
欲を言えば、新作が出るたびに強調されてきた、もっと監督自身のフェティッシュのようなものを前面に感じたかったとか、単純に『コヴェナント』の続編が観たいんですけどとか、思うところはいろいろあるけど、おばさんがうるさいことを言ってもねえ。それよりも単純に若い人がおもしろいと思ってくれること、それでまた新作が作られるようになってくれることのほうが、大事だよなと思います。
だからもう黙りたいんだけど、それでもやっぱり言っておきたいのは、1979年版の『エイリアン』は今観てもぜったいかっこいいぞ、ということ。重ね重ね申し訳ないが、斬新なクリーチャーの造形のオリジナルであるということだけじゃなく、無宗教で愛とか恋とか大嫌い、人間の本質にひたすら客観的にスポットライトを当て続けるリドリー・スコットの世界観や思想、あとキレキレのビジュアルセンスもまったく古くなっていません。今作は最初から1作目と2作目の間と言われているのですでに観た人も多いと思うけど、まだの方はぜひ。そこはやはり原点なのでね。

侍タイムスリッパー(イオンシネマ 大日)

幕末の京都。会津藩士の高坂新左衛門は家老から長州藩士を討つよう密命を受けるが、標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまう。目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所だった。新左衛門は行く先々で騒動を起こしながら、江戸幕府が140年前に滅んだことを知り、がく然とする。一度は死を覚悟する新左衛門だったが、心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻していく。やがて彼は磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩き、斬られ役として生きていくことを決意する。

引用:映画.com
2024年/日本/131分/配給:ギャガ、未来映画社
監督:安田淳一/脚本:安田淳一/撮影:安田淳一/照明:土居欣也 はのひろし/音声:岩瀬航 江原三郎 松野泉/床山:川田政史/特効:前田智広 佃光/時代衣装:古賀博隆 片山郁江/美術協力:辻野大 田宮美咲 岡崎眞理/編集:安田淳一/殺陣:清家一斗/助監督:高垣博也 沙倉ゆうの/制作:清水正子
出演:山口馬木也/冨家ノリマサ/沙倉ゆうの/峰蘭太郎/庄野﨑謙/紅萬子/福田善晴/井上肇/安藤彰則/田村ツトム

『サユリ』に続いて、話題になっていたので足を運んだ作品です。侍が現代にタイムスリップという、ともすれば出落ちで終わりそうなネタを、丁寧に丁寧に肉付けしていって「これ、時代劇への愛や登場人物には好感持てるんだけど、最後どうやって落とすつもり?」と不安になり始めたところでまさかのツイスト。それでもまだどちらかというとのんびりした展開が続くので、どうなるんだろうと思いきや……。

クライマックスで立ち上がってくるテーマが本当にいい。作品にもよるけど、基本的にはライトに楽しむ時代劇というジャンルの本質に迫りつつ、今の時代にタイムリーすぎる「赦し」の物語になっていて、単純に涙の量ということなら、わたしは本作が今年ぶっちぎりのベスト1。寅さんばりのコントシーンや『用心棒』を思わせるチャンバラなど、全体的に古風な話運びで進みつつ、語られるテーマがこれまでの時代劇にはない新しさというところが本当に本当に素晴らしく。

細かな伏線や状況説明の段取りもすごく考えられていて、低予算映画は往々にして脚本が優れているものですが、本作もそれに違わず唸ってしまう瞬間が数え切れないくらいありました。主演の山口馬木也さんの朴訥とした佇まいもよかったし、彼と対称的に往年の時代劇スター感濃厚な冨家ノリマサさんも最高で。別に続編とかやってほしいわけでは全然ないのですが、彼らが今どんな暮らしをしているのかとても気になります。つまりそれくらい感情移入してしまった。


Cloud クラウド(テアトル 梅田)

町工場で働きながら転売屋として日銭を稼ぐ吉井良介は、転売について教わった高専の先輩・村岡からの儲け話には乗らず、コツコツと転売を続けていた。ある日、吉井は勤務先の工場の社長・滝本から管理職への昇進を打診されるが、断って辞職を決意。郊外の湖畔に事務所兼自宅を借りて、恋人・秋子との新生活をスタートさせる。地元の若者・佐野を雇って転売業は軌道に乗り始めるが、そんな矢先、吉井の周囲で不審な出来事が相次ぐように。吉井が自覚のないままばらまいた憎悪の種はネット社会の闇を吸って急成長を遂げ、どす黒い集団狂気へとエスカレート。得体の知れない集団による“狩りゲーム”の標的となった吉井の日常は急激に破壊されていく。

引用:映画.com
2024年/日本/123分/配給:東京テアトル、日活
監督:黒沢清/脚本:黒沢清/製作:永山雅也 太田和宏 臼井正人 松本拓也 五十嵐淳之/エグゼクティブプロデューサー:福家康孝 新井勝晴/プロデューサー:荒川優美 西宮由貴 飯塚信弘/企画協力:石田雄治/撮影:佐々木靖之/照明:永田ひでのり/録音:渡辺真司/美術:安宅紀史/装飾:松井今日子/衣装:纐纈春樹/ヘアメイク:梅原さとこ/音響効果:柴崎憲治/編集:髙橋幸一/音楽:渡邊琢磨/助監督:海野敦/スクリプター:柳沼由加里/制作担当:相良晶
出演:菅田将暉/古川琴音/奥平大兼/岡山天音/赤堀雅秋/吉岡睦雄/三河悠冴/山田真歩/矢柴俊博/森下能幸/千葉哲也/松重豊/荒川良々/窪田正孝

『蛇の道』『Chime』に続いて、今年なんと3本目の黒沢映画。主演菅田将暉で一体どんなものが出てくるのかと思いきや、いや~楽しかった……ていうか、なんか懐かしかった。

転売屋の主人公が悪意なくまき散らす無関心や無神経が、負の連鎖を繰り返して後戻りできない憎悪を育ててしまうというストーリーそのものはとても今っぽいんだけど、何を考えているのか全く分からない登場人物に、ビニールカーテンや謎マシン、黒沢印のあらゆるものがよくわからない方向へ物語を進めて行って、行き着く先があのなんともアッパーな銃撃戦。しかも銃撃戦のくだり、超長いのに全くダレないし、どんどんキャラクターが立ってきて全然飽きなくて。それでもってラストがもう! 佐野くんてそういうことだったのね!!

今年公開された『蛇の道』は、リメイク作品という性質上もあるんだけどちょっと説明過多で興を削いでいたし、短編の『Chime』はとてもおもしろかったけどワンアイデアの小品です。そこで満を持して登場したこの『Cloud クラウド』は、近年の黒沢作品の中でもかなりキレキレというか、ここしばらく原作付きだったりフランス資本だったりで、若干薄味になりつつあった黒沢節がいろいろパワーアップして戻って来た感があります。とても奇妙で意味の分からないところもたくさんあるのに、しっかりおもしろくてしかも現代的な恐怖が襲ってくる、黒沢清にしか作れない世界、久々にお腹いっぱい堪能しました。楽しかったです。

憐れみの3章(TOHOシネマズ梅田)

「女王陛下のお気に入り」「哀れなるものたち」に続いてヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンがタッグを組み、愛と支配をめぐる3つの物語で構成したアンソロジー。選択肢を奪われながらも自分の人生を取り戻そうと奮闘する男、海難事故から生還したものの別人のようになってしまった妻に恐怖心を抱く警察官、卓越した教祖になることが定められた特別な人物を必死で探す女が繰り広げる3つの奇想天外な物語を、不穏さを漂わせながらもユーモラスに描き出す。

引用:映画.com
原題:Kinds of Kindness/2024年/アメリカ・イギリス合作/165分/配給:ディズニー/R15+
監督:ヨルゴス・ランティモス/製作:エド・ギニー アンドリュー・ロウ ケイシア・マリパン ヨルゴス・ランティモス/脚本:ヨルゴス・ランティモス エフティミス・フィリップ/撮影:ロビー・ライアン/美術:アンソニー・ガスパーロ/衣装:ジェニファー・ジョンソン/編集:ヨルゴス・モブロプサリディス/音楽:イェルスキン・フェンドリックス/キャスティング:ディキシー・チェイセイ
出演:エマ・ストーン/ジェシー・プレモンス/ウィレム・デフォー/マーガレット・クアリー/ホン・チャウ/ジョー・アルウィン/ママドゥ・アティエ/ハンター・シェイファー

『哀れなるものたち』に続いて今年2本目のヨルゴス・ランティモスは、久しぶりに個性派の脚本家、エフティミス・フィリップと組んでのオリジナル。近作2本ではやや落ち着いてしまった印象があって、それぞれつまらなくはないもののちょっと残念に感じていたのですが、「支配」を主題とした3本の短編で構成された本作はヨルゴス再び!の悪趣味っぷり。しかもウィレム・デフォーやエマ・ストーンなど一流スターをしっかりファミリーに引っぱりこんでのリボーンなので、ファンとしては嬉しい限りです。またジェシー・プレモンスも出色の好演で、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』での異様な存在感と併せて今年のMVPは決まったようなもの。もうマット・デイモンのそっくりさんとは言わせない、そんな勢いを感じる活躍ぶりですね。

ちなみに、3本の物語はいずれも超ブラックなユーモアに溢れたコメディ。とかく不愉快でグロテスクな場面が続くため万人におすすめはできませんが、理不尽な支配による不安、猜疑、依存等によってすっかり思考が停止した人間には、なんともいえないおかしみが漂います。ひとつのお話が50分ほどなので飽きることもなく、実力派スターたちの変幻自在な演技も堪能出来て。独特の世界観に身をまかせて味わうもよし、随所に散りばめられたメタファーをじっくり考察するもよし、楽しみ方はいっぱいです。『女王陛下のお気に入り』以降タッグを組むロビー・ライアンの撮影もキレキレで、わたしは大いに気に入りました。気になる方はぜひ観ていただければと思いますが、先にも書いたように人を選ぶ作品であることは間違いありません。鑑賞の際は各自、自己責任にてお願いいたします。