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2025年1月に劇場で観た新作映画の感想を書いています。
自分のための覚え書き的なものなので、ごく簡単なメモのような内容ですがご了承ください。
ラインナップはこちら。
- ビーキーパー(イオンシネマ大日)
- トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(T・ジョイ梅田)
- アプレンティス ドナルド・トランプの創り方(キノシネマ心斎橋)
- スティーヴン・スピルバーグ IMAX映画祭『E.T.』(109シネマズ大阪エキスポシティ/IMAX)
- おんどりの鳴く前に(テアトル梅田)
画像:映画.com
まず2025年の映画初めは『ビーキーパー』。ひさびさに良い意味で頭の悪い映画を堪能して、これは今年も幸先がいいぜ!! と思ったところに『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』……ってもう、2025年やばい!やばいぞ!!
いすれも本国公開は少し前ということで、コロナ禍収束直後の作品ということなのかな。こういう映画はどれだけあってもいいわーと思う反面、内容に社会状況が反映されているかと思うと複雑に思うところもなきにしもあらず。
とはいえ憂うべき状況が映画にすらならなくなるというのはもっとまずいと思うので、出されたものはおいしくいただいて、過剰な添加物を取り除いたその奥にある作り手の思いはきっちり咀嚼して心の引き出しに忍ばせていこうと思います。
このあとネタバレがあります。気になる方はご注意下さい。
ビーキーパー(イオンシネマ大日)
アメリカの片田舎で養蜂家(ビーキーパー)として隠遁生活を送る謎めいた男アダム・クレイ。ある日、彼の恩人である善良な老婦人がフィッシング詐欺に遭って全財産をだまし取られ、絶望のあまり自ら命を絶ってしまう。怒りに燃えるクレイは、社会の害悪を排除するべく立ちあがる。世界最強の秘密組織「ビーキーパー」に所属していた過去を持つ彼は、独自の情報網を駆使して詐欺グループのアジトを突き止め、単身乗り込んだ末にビルごと爆破。その後も怒とうの勢いで事件の黒幕に迫り、事態はFBIやCIA、傭兵部隊や元同業者まで入り乱れる激しい闘争へと発展していく。
引用:映画.com
ステイサム映画は常に年に1、2本、コンスタントに観ているはずなんですが、ひさびさに「ステイサムを観た!」という実感が伴う作品でした。
まあ、よくよく考えてみると脚本はガバガバ、ツッコミどころは満載なのですが、とにかく序盤から展開が早い→「悪」が凄まじく「悪」なので、細かいことはいいからやっちまえという心理が働く→多彩なアクションをしっかり見せてくれる→ときどきジェレミー・アイアンズが(無駄に)渋み深みを出しつつ大風呂敷を広げてくる→渋みがどうでもいい層には世界観を壊さない程度にマンガみたいなキャラクターが出てきたりして楽しい……という感じで、80年代のアクション映画の無双感と90年代~2000年代初頭のマンガ感が互いにケンカしないよううまく混じり合っていて、さらに敵はそれなりに現代的。時代ごとのかなり毛色の異なる味わいが、とてもバランスよく同居していると思いました。
ただ基本的に「IQの低い映画」であることは間違いなくて。「ビーキーパー」ってただのコードネームぽいけど実際に蜂育ててるのってなんでとか、ジェレミー・アイアンズのひそかな恋バナとか……いる?って思うところも多々あります。あと私はデビッド・エアー監督がもともと好きなので、彼のチューニングみたいなものが性に合ったところも大きいと思うので、これから観る人はあまりハードルを上げすぎず、それなりに楽しめる午後ロー映画くらいの小品であることはじゅうぶんに承知して鑑賞していただければと思います。
トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(T・ジョイ梅田)
1980年代。香港に密入国した青年チャンは、黒社会のルールを拒んで己の道を選んだために組織から目をつけられてしまう。追い詰められた彼は運命に導かれるように、黒社会に生きる者たちの野望が渦巻く九龍城砦に逃げ込み、そこで出会った3人の仲間たちと深い友情を育んでいく。しかし九龍城砦を巻き込む抗争は激化の一途をたどり、チャンたちはそれぞれの信念を胸に命をかけた戦いに身を投じる。
引用:映画.com
香港映画はたしなむ程度の私でもときめくレジェンド級キャストに信頼の置ける制作陣、10億円掛けて再現された九龍城砦と、本国での公開時から話題になっていたモンスター級タイトルがやっと日本にもやってきました。観る前から楽しい映画であることは分かっていたので結構ハードル高めでの鑑賞となりましたが、いやいや、よかったです。それこそ、想像力の乏しい私の期待を軽く100段くらい飛び越えてくるレベルで。
なにがよかったってそれはもう、まずいちばん最初に来るのはアクションですよね。登場人物が多いのでアクションシーンも多いのですが、キャラクターごとに戦い方にちゃんと個性があって混乱しないし、薄暗いところでもわかりやすい。特に若手は団体戦が中心になるのですが、動きや位置関係も常に明快で、同時多発的にバトルが起こる際ありがちな気の散るカットバックもほとんどなかったと思います。
あとサモ・ハンをはじめとしたレジェンドたちも動く動く。年齢を感じさせないアクションを当然のようにこなすのはもちろん、動き以上ににじみ出る存在感にも唯一無二の凄まじさを覚えて戦慄させられました。さらにすべてのアクションが九龍城砦独特の構造をしっかり生かしており、狭い空間での制限を利用していたり、縦の動きが印象的に活用されていたり。それが細部まで作り込まれた美術に映えまくるので、アクションシーンが多めでも飽きることなく作品世界に引き込まれます。
お話の方はというと、基本はひたすら熱い少年漫画的王道展開。なのに非常に深みを感じさせられるのは、丁寧に再現された香港を象徴する九龍城砦とそこに暮らす人々の生活ぶり。主人公たちだけではなく老若男女すべての人たちが自分たちの居場所を守ろうとしているさまは、今現在の香港や香港映画の置かれた複雑な状況とも重なって切実に響くというか、諸々の憂える状況をこんな荒唐無稽で力強いドラマにしてしまうところがなんとも爽快な香港魂というか。
とにかく私は正月早々、大いに活力をもらって大満足でした。たぶん2025年の10本のうちの1本になるのは決定じゃないかと思っています。続編もある(三部作らしい)とのことなので、まだまだ生きねばなりません。なにかと世の中が不穏な昨今、こういう映画は大事です。
アプレンティス ドナルド・トランプの創り方(キノシネマ心斎橋)
1980年代。気弱で繊細な若き実業家ドナルド・トランプは、不動産業を営む父の会社が政府に訴えられ破産寸前まで追い込まれていた。そんな中、トランプは政財界の実力者が集まる高級クラブで、悪名高き弁護士ロイ・コーンと出会う。勝つためには手段を選ばない冷酷な男として知られるコーンは意外にもトランプを気に入り、「勝つための3つのルール」を伝授。コーンによって服装から生き方まで洗練された人物に仕立てあげられたトランプは数々の大事業を成功させるが、やがてコーンの想像をはるかに超える怪物へと変貌していく。
引用:映画.com
こういう映画が作られるところがアメリカのおもしろいところ。しかもトランプを演じるのがそれなりにビッグなスター、セバスチャン・スタンって。アリ・アッバシ監督も大好きなので、一体どんな映画になっているんだろうと思いつつ劇場へ向かいましたが……いやあ、めっちゃおもしろかった!! 実はもっとゴシップ的なつくりかと思っていたのですがが、トランプに向けられる目線は意外にもフラットで中立。だからこそ際立つアレな感じもいい。
そんな印象はセバスチャン・スタンの空虚さを体現したような演技の素晴らしさによるところも大いにあるんですが、ロイ・コーンにしてもトランプにしても、シンプルな野望や欲望というよりは「何らかの欠落」に問題の根幹があるような気がしました。抑圧、差別はもちろん個性を認めない社会、家父長制、世の中のすべてのゆがみやねじれの行く末がこのあたりにあるんじゃないか、そんななことを強く思います。でもだからといって、今現在の状況を鑑みると「罪を憎んで人を憎まず」と心穏やかに説教する気持ちにもなれないわけで、なんだかなあ。
というわけで、社会派な映画ですが難しいところはそれほどありません。どこまで事実かはさておき笑えるシーンもたくさんあって(最初の夫人イヴァナさんへの猛烈にダサいアピールからの諸々とか、アンディ・ウォーホールとの会話とか)意外にもサラッと観ることのできる作品です。ただ細部まで理解しようと思うと当然のことながらトランプとロイ・コーンに関する基礎知識はあった方がいいかなと思います。あとはわりとショッキングな性暴力シーンがあるので、苦手な方はご注意下さい。
いちおう私が本作鑑賞前後にチラ見したドキュメンタリーを並べておきますね。
- ロイ・コーンの真実(Prime Video
)
- トランプ アメリカン・ドリーム(Netflix)
- 困った時のロジャー・ストーン(Netflix)
スティーヴン・スピルバーグ IMAX映画祭『E.T.』(109シネマズ大阪エキスポシティ/IMAX)
アメリカのとある森に、地球の植物を調査するため宇宙船が飛来する。捜索を行う人間たちが迫ってきたため、宇宙船は逃げるように飛び去るが、その際に1人の異星人が取り残されてしまう。森のそばに暮らす10歳の少年エリオットは、その異星人と出会い家にかくまう。兄と妹を巻き込み、E.T.と名づけた異星人と交流を深めていくエリオットたちだったが……。
引用:映画.com
私がはじめて映画館で観た洋画です。ただガーティくらいの年齢だった私は、字幕(当時の映画館では吹き替えの上映はありませんでした)も半分くらいしか読めなくて、記憶は正直曖昧。それでもかなり怖くてずっと印象に残っていたのは、ディー・ウォレス演じるお母さん(特に前半)のキリキリ感です。私はこの頃いろいろあって母親と2人暮らしだったので、自分が唯一頼れる大人(=母親)がキリキリしてるっていうのは、ものすごく怖かったんだろうな。
自転車が飛んだりする中盤以降のアドベンチャー感にわくわくしたのは、その後テレビでの放送を見てからだと思います。でも年齢的に生意気ざかりだったせいか、意地悪に感じた仲間たちとタッグを組んだり、絶妙なタイミングで空を飛んだり、じっくり泣かせるあたりはすごいなと思いつつちょっと醒めた気持ちで眺めていたというか。スピルバーグは子供の観るものという当時の風潮もあって「これくらいで泣きませんよ私は」って力みつつ、それでもやっぱり泣いたかな……みたいな。
今回はとてもフラットな気持ちで鑑賞することができたので、あらためてその面白さに脱帽しました。IMAX上映ということで、粗が目立ったりしないのかしら、と心配していましたがそんなことはまったくなく。むしろVFXなど(この頃はSFXと言った方がいいのかしら)テクノロジーの出来不出来(時代による差も含めて)によって、映画の魅力ってそれほど左右されないものだなと。もちろんいいに越したことはないですが、演出だったり、役者の演技にはそれを突き抜ける力があります。今でも古い映画はたくさん観るので頭では分かっていたつもりでしたが、やっぱり映画館で実感すると腹落ち感が半端ないです。
おんどりの鳴く前に(テアトル梅田)
ルーマニア北東部モルドバ地方の自然に囲まれた静かな村。野心を失い鬱屈とした日々を過ごす中年警察官イリエは、果樹園を営みながらひっそりと第2の人生を送ることを願っていた。そんなある日、平和なはずのこの村で、斧で頭を割られた惨殺死体が発見される。捜査を任されたイリエは、美しい村に潜んだ闇を次々と目の当たりにしていき、やがて驚くべき結末にたどりつく。
引用:映画.com
事なかれ主義と忖度が蔓延する閉鎖的な田舎町で、ずっと長いものに巻かれ続けてきた中年警官イリエが主人公。紆余曲折を経た彼が、果たして権力とどう立ち向かうのか。
内容そのものは目新しいわけではないし、かといって惹句の「まるでタランティーノ×リューベン・オストルンド」にも「そうかなあ?」と思ったり思わなかったり。でもイリエのダメさと憎めなさを丁寧に描いているところは大変好ましく、決して悪人ではないけれど、ささやかな欲望に負けたり、流れに逆らうことが怖かったり。誰の心にもある「みんなやってる」「仕方ない」が積み重なって鬱屈をため込んでいく課程と、臭いものに蓋をして生きてきた彼にある日突然降りかかってくる大きなツケの唐突さがなんともやるせないです。気がついたときにはもう遅いんだよ、という部分がもうね。でも現実ってこんな感じなんでしょうね、たぶん。
終始鈍重なだけに人間臭く、それだけに身につまされるところがダイレクトに刺さります。規模の大小こそあれ一向になくならない世の中の隠蔽体質について、すこしでも考えるきっかけになればいいのだけど。