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2024年2月に観た新作映画の感想を書いています。
自分のための覚え書き的なものなので、ごく簡単なメモのような内容ですがご了承ください。
ラインナップはこちらです。
- ダム・マネー ウォール街を狙え!(TOHOシネマズ梅田)
- ボーはおそれている(TOHOシネマズ梅田)
- 落下の解剖学(TOHOシネマズ梅田)
- アメリカン・フィクション(配信のみ/Prime Video)
画像:映画.com
話題作だった『落下の解剖学』と『ボーはおそれている』は、よくできているとは感じましたがもうひとつ肌に合わず。
ポール・ダノが嫌いになれない『ダム・マネー ウォール街を狙え!』は経済オンチにもわかりやすくておもしろかったですが、いちばん楽しく観たのは配信スルーの『アメリカン・フィクション』でした。
このあとネタバレがあります。気になる方はご注意下さい。
ダム・マネー ウォール街を狙え!(TOHOシネマズ梅田)
コロナ禍の2020年、マサチューセッツ州の会社員キース・ギルは、全財産5万ドルをゲームストップ社の株に注ぎ込んでいた。アメリカ各地の実店舗でゲームソフトを販売する同社は時代遅れで倒産間近と囁かれていたが、キースは赤いハチマキにネコのTシャツ姿の「ローリング・キティ」という名で動画を配信し、同社の株が過小評価されているとネット掲示板で訴える。すると彼の主張に共感した大勢の個人投資家がゲームストップ株を買い始め、21年初頭に株価は大暴騰。同社を空売りして一儲けを狙っていた大富豪たちは大きな損失を被った。この事件は連日メディアを賑わせ、キースは一躍時の人となるが……。
引用:映画.com
私は経済にはまったく明るくありません。本作が扱っている「ゲームストップ株騒動」についても全然知りませんでした。それでも映画が楽しめたのは、タイトルにもなっている「ダムマネー(愚かなお金)」と呼ばれる個人投資家たちが結束して、強欲な投資家たち(ヘッジファンド)を打ち負かすという構図が(細かいことは分からずとも)すがすがしかったから。また変なTシャツ姿にランボーのごとく赤いバンダナを巻き、よくわからない弁舌をふるう主人公キース・ギルを演じるポール・ダノをはじめとして、ビンセント・ドノフリオ、アメリカ・フェレーラ、セバスチャン・スタン、セス・ローゲンとキャストが異常に豪華で、観ているだけである程度以上の見ごたえがあったからです。
これだけ実力派がそろっているとあまり興味のない世界が舞台でも演技にひきこまれて見入ってしまうし、ちゃんと見ていればそれなりに流れはわかるようになっているし。このあたりのさじ加減は、さすが『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』や『パム&トミー』など、実話ベースの事件ものを得意とするクレイグ・ギレスピー監督。とはいえ、基礎知識ゼロはやっぱり気が進まないと感じるなら、公式サイトにある簡単な用語集に目を通しておくといいかもです。
そういえばキースたちが株を買うゲームショームストップ」の店長がデイン・デハーンだったのには驚きました。彼は「オッペンハイマー」といい、最近ちょいちょいクセの強いポジションで存在感を発揮していていい感じ。この立ち位置で今後も活躍してほしいものです。
ボーはおそれている(TOHOシネマズ梅田)
日常のささいなことでも不安になってしまう怖がりの男ボーは、つい先ほどまで電話で会話していた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。その後も奇妙で予想外な出来事が次々と起こり、現実なのか妄想なのかも分からないまま、ボーの里帰りはいつしか壮大な旅へと変貌していく。
引用:映画.com
これは、常に不安に苛まれている男の脳内を疑似体験するみたいな内容ということでいいのかしら。母親の訃報を受けて、一刻も早く家に帰らなくてはならないボー。でも次から次へと不幸に見舞われる。事態はどんどん悪化して、永遠に帰ることができそうにない。
「んなわけあるか!!!」なスラップスティックな展開が数珠つなぎに起こる前半はとにかく楽しかったです。それはもう、思わず声を出して笑いそうになってしまうほど、ビジュアルも凝っているし、お風呂のシーンは気持ち悪いし、アクションは勢いありすぎだし、アニメーションも効果的。ただ2時間くらい延々そんな場面が続くので、ひとつひとつのエピソードはつまらなくはないんだけど飽きてきます。随所に散りばめられたモチーフ(宗教的なものが多いのかな)を拾ったりすればいいんだけど、まあさすがに限界があるかなっていう。で、終盤はまた話が転がり始めるのですが、その後もいまひとつ上がる要素がないままに幕が下りてしまったなという感じ。
私はアリ・アスター監督作品の、『ヘレディタリー/継承』にも『ミッドサマー』にも感じられたクライマックスのひたすらブチ上がる祭感がとても好きだったのですが、今回はそれがなかったからちょっと物足りなく感じたのかもしれません。理不尽で圧倒的なものになすすべなく呑まれてエンドというのも、主人公がそこに前向きじゃないせいか、なんか好みじゃなかったです。
でもオロオロするホアキン・フェニックスとか、極彩色のスラップスティック感とか、魅力的な部分はたくさんあるので観て損はなし……というか、これから出るだろう配信や円盤で、気になるシーンだけじっくりゆっくり眺めたい。私としてはこの映画はそんな感じで楽しみたくて、ボーに突っ込み入れまくりつつ誰かとお酒でも飲みながらダラ観とかしたら、かなり盛り上がるんじゃないかと思ってる。だから嫌い、とかじゃないんだけど……長いし、通しで観るのはちょっとしんどかったな。
落下の解剖学(TOHOシネマズ梅田)
人里離れた雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見し、悲鳴を聞いた母親が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、前日に夫婦ゲンカをしていたことなどから、妻であるベストセラー作家のサンドラに夫殺しの疑いがかけられていく。息子に対して必死に自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。
引用:映画.com
主人公は夫殺しの疑いで逮捕されたベストセラー作家、ザンドラ。ザンドラは無罪を主張するも、次々と出てくるのは格差や言語、人種の違いからうまくいっていなかった夫婦生活を窺わせる噂ばかり。しかもそれらの話題はすべて断片的、かつ誰かの偏った主観によるものなので、いつまで経っても事件の真相は立ち上がってきません。
そんな中、法廷で裁かれるサンドラを見ている私たちが問われるのは、この事件について、もしくはサンドラという女性についてどう思うか。つまり偏見や先入観に惑わされていないか、もし惑わされているとするなら、なぜなのか。たとえばザンドラと夫の立場が逆だったら、同じことを思うだろうか。
本作はそんなことを真っ向突きつけられ、動揺させられる、まさにパルム・ドールにふさわしい傑作だったと思います。とはいえ私がどうしても微妙だったのは、観た人ならピンと来るであろう犬のシーン。いくら安全に配慮していると言われても、動物ってそれをやることを自分で選べないわけだから、安全ならいいというものでもない気がするんですよね。呼べば来るとか、合図されたら目標まで走って行くとか、あと少々の障害物を越えるなんていうのも犬にとっては遊びの延長でこなせるのかなとは思うのですが、これってはたしてそのレベルでできてることなのか。訓練にはかなりの時間を要したらしいし、それって犬にとって結構なストレスじゃないのかな。たとえ安全ではあっても……って。
ちょっと神経質とは思いつつ、いろいろ気になってしまって終盤はあまり楽しめませんでした。ただまあこれは私が映画に登場する犬(動物)に対して極端に敏感だからだと思います。なにしろ私は昔の西部劇の馬なんかも平常心で観られないチキン。もちろん本作、というか昨今のこの規模の映画ともなれば、プロもついているだろうし、おそらくしっかり配慮されているのでしょう。だから青筋を立てて怒る気はまったくないんだけど、単純に私は観ていてちょっとつらかったし、動揺しすぎてそれ以降の映画の内容はあまり入ってこなかったし。映画そのものはおもしろかったけど観直す気にもなれなくて、ああいうシーンはほんと、私的には匂わせるだけで映さないとか、何ならCGで全然いいんだけどな。
アメリカン・フィクション(配信のみ/Prime Video)
作品に「黒人らしさが足りない」と評された黒人の小説家モンクが、半ばやけになって書いた冗談のようなステレオタイプな黒人小説がベストセラーとなり、思いがけないかたちで名声を得てしまう姿を通して、出版業界や黒人作家の作品の扱われ方を風刺的に描いたコメディドラマ。
引用:映画.com
主人公は生活能力がないくせにプライドばかりが高い売れない作家。次々と襲いかかる想定外の事態には同情の余地もなくはないものの、その都度対応が雑なのでどんどん面倒くさいことに。ともすれば途中で付き合うのがつらくなるタイプのキャラクターながら、どこか憎めないのはジェフリー・ライトのキュートさゆえで、これまで堅物な役が多い印象だったこともあり、ふてくされたり困ったりという状況がとても新鮮で魅力的でした。
映画の内容はというと「マイノリティをステレオタイプに描いたカルチャーを消費して、嬉しがる界隈を批判する」という、映画や本などが好きな私たちにとってはなかなか痛いたぐいのブラックコメディ。「黒人のステレオタイプ」にキャッキャとはしゃぐ出版社の白人たちを見ていると、不快になると同時に「自分はどうなの?」とひやりとさせられたり、またそれがすごく笑えるシチュエーションで繰り広げられるので、笑うに笑えない複雑な気持ちになったり。
ただ、尖ったセンスでひたすら攻める抱腹絶倒のコメディなのかと思いきや、メインのエピソードとほぼ半々くらいの比率で語られる主人公の家族の問題はかなり重めで深刻です。え、なにそれ食い合わせ悪くない? と思う方も少なくないと思うのですが、この映画の凄いところは、この2つの要素が絡まって、凄まじく湯加減のいい、優しくも湿っぽさのない気持ちのいい結末に収束していくところ。最高に粋な上にオンリーワンの味わいのあるラストには、今のところ今年いちばん泣かされました。
権利の有効期限切れとのことで、今現在は配信されてないみたいです。おもしろかったのになあ。