映画『オッペンハイマー』感想 好みかどうかはともかく意味はある

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あらすじと作品情報

第2次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のロバート・オッペンハイマーは、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……。

引用:映画.com
原題:Oppenheimer/2023年/アメリカ合作/180分/配給:ビターズ・エンド/R15+
監督:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィ/エミリー・ブラント/マット・デイモン/ロバート・ダウニー・Jr./フローレンス・ピュー/ジョシュ・ハートネット/ケイシー・アフレック/ラミ・マレック/ケネス・ブラナー/ディラン・アーノルド/デビッド・クラムホルツ/マシュー・モディーン/ジェファーソン・ホール/ベニー・サフディ/デビッド・ダストマルチャン/トム・コンティ/グスタフ・スカルスガルド

感想

以下、オチに関わるネタバレは極力避けていますが、内容には触れています。気になる方はご注意下さい。



まずはそれなりに楽しみました

クリストファー・ノーランの映画は『メメント』以降すべて観てはいるものの、正直相性はもうひとつのわたし。特に今回は戦争に関する実話がベースということで、脳裏を過ったのがノーラン作品の中でもわりとダメな方の『ダンケルク』。「『ダンケルク』で3時間か…」と鑑賞前は戦々恐々だったものの、蓋を分けてみればあら不思議、それほどしんどくはないというか、これまでのノーラン作品の中でもわりと上位に食い込む面白さでした。

その理由は大きく分けて2つ。ひとつは撮影のホイテ・ヴァン・ホイテマによる圧倒的なビジュアル、もうひとつはオールスターによる演技合戦です。加えてノーランお得意の時間軸を行き来する手法も、ややこしいといえばややこしいけど、この内容を3時間ベタッとやっちゃうとさすがに後半グダグダになってしまうような気がするから、まあ上手く嵌っていたんだと思う。

あと今回は科学者の伝記ということで、彼の微妙な部分――たとえばアクションが圧倒的に下手だとか、時に複雑さと評されるドラマの雑さ(わたしは単なる説明不足と思っている)が目立ちにくくなっていて。さらにはこれまでの作品では、わたしとは常に異なる方向性に展開されていたロマンチシズムやナルシシズムみたいなものも気にならなくて、公聴会で(文字通り)丸裸にされるオッペンハイマー(キリアン・マーフィ)と、彼にまたがる愛人ジーン・タトロック(フローレンス・ピュー)、それをじっとり見据える妻キティ(エミリー・ブラント)のシーンなんかは超最高、ノーラン作品でまさかここまで人間の生々しさを、しかも圧倒的な映画的手法で感じることが出来るとは思ってなかったので眼福でした。

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一方、気になったことも

というのは、やはり原爆の扱いです。本作はオッペンハイマーの伝記であり、彼の視点で綴られる物語ということなので、広島、長崎の惨状が描かれないのは仕方がないとしても、かわりに差し挟まれる(オッペンハイマーが幻視するという体で描かれる)被爆のイメージ映像、あまりに貧困じゃない? いくらCG使わないって言ったって、世の中には特殊メイクというものだってあるんだからあまりにもひどい。被害を調査する場で、スライドから目をそらすところもなんだかなあ。彼の視点で綴られる、彼の見たものしか映らないというルールでいくなら、スライドは見てるわけじゃないですか。見たから目をそらしたんですよね? なのに一瞬でもスライドが映らないのなんで? 原爆を作るところをしっかり見せるんだから、そこは逃げちゃダメじゃん。映画なんだから、やっぱり見せないことには始まらないじゃん?

このあたりについては多くの人がさまざまな考えを持っているようですが、わたしは本作中には、たとえほんの一瞬でも、観た人の心にトラウマを残すような映像を入れるべきだったと思います。それは広島、長崎じゃなくてもよくて、たとえばトリニティ実験を行うまでに起こった多くの事故やトラブルのうちのひとつでもいいし、秘密裏に進められていたという恐ろしい人体実験のことでもいい。劇中では東京大空襲や、負けの確定している国に原爆を落とすことの是非、勝ち戦に酔う国民の狂気といった部分もしっかり言及されていて、それはそれで評価すべきだけど、やっぱり原爆が普通の爆弾とは全く違うレベルの惨劇を引き起こすものなのだということ、つまり放射線が人体に及ぼす被害というのを、しっかり絵で見せるべきでした。でないと、いくらオッペンハイマーが劇中でどれだけ痛ましい表情をしていたって、原爆を知らない人(わたしも含めて)は、その惨劇を想像するこができません。だってほとんどの人は知っている以上のものを想像することができないのだから。わたしはそれを見せるのが映画だと思ってる。

あとはトリニティ実験の後がちょっとダルかったとか、劇伴が終始流れていて(三半規管に持病のあるわたしには)やや耳障りだったとか。後半ストローズが急にマンガみたいな悪役になってちょっと笑えたりなんかもして、細かい部分については言い出すといろいろあるし、やっぱりわたしはノーランとはあまり相性が良くないなということをあらためて認識したりもしたのです、が。

とはいえこういう、大勢が観る娯楽作品でありながらしっかり社会派でもある映画というのは昨今貴重。これをきっかけとして多くの人が今現在起こっていることや核に興味を持ち、議論したり関連書籍を手に取ったりするようなことがあればそれはとても素晴らしいことだし、かく言うわたしも映画鑑賞後は原作本を買ったり過去の原爆関連の映画を見直したりしていて、我ながら充実した時間を過ごすことができています。娯楽作品が社会問題(しかもかなりデリケートな)を扱うことは往々にして賛否を巻き起こしがちですが、それだって議論だから、ないよりはあるほうがいいよね。

参考

もう公開からずいぶん経っているので、いまさらではありますが上映方式について。個人的にはこれ、IMAXじゃなくて全然いいと思います。わたしは張り切って「109シネマズ大阪エキスポシティ」のIMAXレーザー/GTテクノロジーで観たのですが、コロコロ変わる画角が若干煩わしかったです。

本作のわかりやすい見どころはトリニティ実験の爆発シーンですが、ここのビジュアルも(セットなどはすごかったですが、爆発そのものは)もうひとつ。CGを使わないこだわりが裏目に出てしまったのか、不気味さに欠けて感じました。かわりにガツンと来るのは音なので、わたしのおすすめはドルビーシネマです。ただなかなかの凄まじさなので、大きな音が不安な方は普通のスクリーンで。この映画のよさは、それでもじゅうぶん楽しむことが出来ると思います。

原作本は3分冊。今読んでいる最中ですが、長いですが読みやすく、映画を補完するのに最適です。

マット・デイモンが演じていたレズリー・グローヴスを主人公に、マンハッタン計画周辺を描く1989年の作品です。経年なりの古さはありますが、放射能の怖さもちゃんと描かれていてわたしとしては好印象。主演はポール・ニューマン、監督は『キリング・フィールド』『ミッション』ローランド・ジョフィです。残念ながら(たぶん)配信はないので、観るには円盤を購入、もしくはツタヤ等でレンタルするしかありません。